2015.06.18
別居生活のなかで学んだ“根を張って生きる”こと<中編>
吾妻りえさんの助けられ力【伝える力】
美術モデルってどんなお仕事?
現在、別居中のシングルマザーのりえさん。ご実家から子どもの送り迎えや、不在時のお留守番など、子育て面で助けてもらうことは多々あるけれど、金銭的な援助は受けていません。つまり、立派な一家の大黒柱なのです。
現在の仕事は美術モデル。非常に変わった職業なので、少々説明したいと思います。
一体どんな職業かというと、美術モデル専門のモデル事務所に登録をして、そこから美術モデルを求めている場所に行って、ポーズを取るというもの。イメージからして、美大や画家のところへ行くのかな? と想像しがちですが、カルチャースクールや美大系の予備校、さらにはデザイナーやゲームクリエイター、マンガ家を目指すような専門学校などへも派遣されるのだそうです。デッサンやクロッキー、彫刻といったアート作品だけでなく、漫画のキャラクターの習作などにもなるため、ポージングも様々な形を求められます。
また、ポーズを取るというと、油画の裸婦像を思い浮かべ、「ヌードなのかな?」とも思いがちですが、ドレスや和服、民族衣装などを着てポーズを取るなど、自前で用意しなければならないものも少なからずあります。もちろん、容姿を保つ必要もある上、髪型やメイクにも気を使わなければなりません。
つまり、非常に活動範囲が広い上、ノウハウも求められる職業なのです。そのため、毎日のように仕事が入ると、子どもを育てていけるくらいの収入になる職業なのです。
りえさんは、28歳のときに美術モデルの事務所に登録をしました。
「当時ちょうどs夫がリストラになったため、下の子の授乳が終わったタイミングで働きはじめました。元々ダンスなどを習っていたので、ポーズにはそこそこの自信がありました」
少しずつ収入を増やしていく努力
「最初のうちは週2回程度と、パート感覚で始めました。少しでも生活費を補填できたらいいなと思って……。また、長女の妊娠を機に専業主婦になったので、子ども達は幼稚園に通わせていました。そのため、働ける時間も限られていました」
夫がリストラになったからといって、すぐに保育園に預かってもらえるわけではありません。その辺りは、リエさんと同じように苦労した経験がある方もいるのではないでしょうか。
「パート感覚ではありましたが、いつかはフルタイムで働けたらと考えていたので、基盤作りだなと思っていました。美術モデルの事務所には、常に100〜200名のモデルが登録しています。ただ登録しているだけでは定期的に仕事はまわってきません。カルチャールクールや予備校の先生方同士、作家さん同士で、『いいモデルさんいるよ』と口コミでの紹介がないと、どうしても仕事が途切れてきてしまうんです」
リエさんが美術モデルで生計を立て始めたのは、ご主人と別居してから以降。少なくても週5日、多いときには週7日ほど仕事が入ってくるそう。大黒柱にとって、仕事がないというのは死活問題です。
現場では、依頼されたポーズを取るだけでなく、その場にあわせて臨機応変に対応する、事務所とはホウ・レン・ソウをしっかりと行いコミュニケーションを密に取る……。仕事を発注する側と仕事を受けるモデル事務所、パート感覚で働き始めたときからどちらにもコツコツと地道に信頼関係を作ってきたからこそ、シングルになって「しっかりと稼ぎたい」と思ったときに、叶えられる状況ができ上がっていたのです。
「夫は実家に戻った後、『農業をやるんだ』と言っていましたが、試行錯誤した上で、今は庭師になっています。ただ、その仕事は夫の実家の近くだからこそ、仕事がある職業です。だから、今、私たちが住んでいる場所で一緒に暮らし始めてしまうと、また夫の仕事が無くなってしまう可能性が大きいんです。つまり、いつから同居ができるのか全く分からない……。将来の見通しが立たないのは、こんなにもつらいことなんだと思う事も多々あります。でも、今まで、その時その時を一生懸命やったら道が拓けてきた。だから、これからも今を一生懸命生きていけば、なんとかなるんじゃないかなと思っています」
一般的にはまとまったお金を稼ぎづらいと思われているモデルという職業で、しっかりと一家を養えるくらいの収入を得られるようになったリエさん。この成功体験からも、「未来は拓ける」と信じていけるのだと語ります。
妊娠や出産を機に、仕事を一度辞めてしまう女性が多いと思います。再び、働きはじめる時、退職前のような条件で働けるとは限りません。けれども、どんな職業であっても、コツコツきちんと取り組んでいけば、見ていてくれる人がいて、困ったときには手を差し伸べてくれるものなのではないかと思います。私も14年ほどフリーランスで働き続けてきて、人と人とのつながりが大事だなといつも感じます。
伝える力は言葉だけではありません。どんな働き方をするかという行動もまた伝える力なのだと思いました。
後編に続きます。