2015.12.24
日本的育児の大切さ よしもとばななの父親・吉本隆明氏の家族論
80歳にして渾身の書き下ろし
思想家・吉本隆明氏の
「育児」「家庭」「老後」…
人生のドラマへの考察
目の前の子どもと向かい合う
小学生高学年の娘がいます。わたし自身は早くに子どもを産んだため、最近になって妊娠・出産する友人が増えてきました。
友人がいろいろな育児の情報を知っているのを見て、「もっと感覚的に育てていっていいのに!」と思うことが多々有ります。
私が妊娠・出産をしたころは、今のようにインターネットが普及しておらず、育児に関する情報は、雑誌や周囲の助言しかありませんでした。
急に熱が出たり、具合が悪くても、まずは「母親の勘」を働かせて、目の前の子どもと対話をしながら乗り越えてきた気がします。
だからといって、現代の育児を否定する気はないですが…。本著は、そんな現代の子育てをはじめとする「家族のありかた」についてのモヤモヤを代弁してくれました。
「わたしの時代はこうだった」も大事
著者である吉本隆明氏は、あのよしもとばななさんのお父さん。
思想家・文芸評論家として、戦後の日本を牽引してきました。
本著は、吉本隆明氏が晩年に書き下ろした、「育児」「家庭」「老後」など、人生のドラマへの考察です。
平たく、ちょっと悪い言葉で言えば、「頑固なじいさんの独り言」のような感じ。すべてが同意できる内容でもないし、「それは時代錯誤でしょ」ということも多々あります。でも、この世代の思いを聞けることって、貴重だと思うのです。
例えば、ベビーシッターの普及や母乳神話からの離脱、母子分離の寝室推奨など、近年の西洋化する育児について、吉本氏は警鐘を鳴らします。
「小さな産院で産まれ、町で見守り、乳幼児期は母親と添い寝をする。そんな日本的育児だって大切なんじゃないか」と説きます。
たしかに数十年前に比べて今は、母親たちが産み、育てやすくなっている(制度的なものだけでなく、精神的に母親たちが自由になってきている)気がします。いつだって「わたしの時代はこうだった」、「こんなに大変だったのに今は楽ね」と、あーだこーだ言う親世代は多いです。
それに対し、「今はこういう時代なんだ」と突っぱねるのは簡単かもしれない。
でも、その世代に自分たちがどう育てられてきたか、何を大切に思って育ててきてもらったのか、を聞くのは、とても大切なことだとわたしは思うのです。
子どももお年寄りも、同じ地平にいる
また、現在義理の祖母の介護をしている身なのですが、老年期の考察についてもストンと腑に落ちるものがありました。
わたしたちはどうしても、先をいく人生の先輩たちについて、「謙虚で聡明で、心穏やかであってほしい」と願ってしまいます。
しかし吉本氏は「お年寄りは誰でも、不安だったり苛立ったりしている。(中略)お年寄りのこころの深い部分はちょっと若い人間にはわかりきれないのかもしれない」と言います。
日本の専門家は、子どもと老人を侮っているとも。
どちらにも「知」があるのだけれど、どうもその中間にいるわたしたちは、勝手に解釈してわかった気になっているのだ、と。
このようなすれ違いは、子どもにも起こり得ます。
まだよしもとばななさんが幼い時、父親である吉本氏はよく公園に「連れていって遊んでやった」そうです。
成長してから、「よく公園で遊んでやったよな」と言ったところ「遊んでもらった記憶はない」と言われたのだとか。
各々好きなように、楽しそうに遊ぶ子供達を見ながら、ベンチで読書をしていた吉本氏は、子どものこの発言にハッとし、とても反省したのだとか。
こんな風に、親と子の間には、無意識のうちの齟齬(そご)が蓄積していっているのです。
これからも、できるだけ「子どもと同じ地平で」遊び、考え、話すことを意識していこうと思いました。
《おすすめしてくれたワーママ》
小学生になる娘を持つシングルマザー。趣味は読書と古道具などを集めることで、本著も古本屋で見つけたのだとか。タイトルに惹かれて読み始めたら、家族のありかたを考えるきっかけになったという。娘であるよしもとばなな氏は、20年来のファン。
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浦和ツナ子
ライター/編集