2016.02.07
時間割はない、でもカフェはある! 話題の「まちの保育園」って?
【子どもだけじゃない!】大人も輝く 保育園の新しいカタチ
~まちの保育園 松本理寿輝(りずき)さんインタビュー~
0歳から6歳の期間は、子どもの人格形成や成長にとても重要な時期。
とはいえ、待機児童問題など、ワーママ的には「預かってくれるならどこでも!」という状況で、保育園で子どもがどんな教育を受けるかということまではなかなか深く考えられない現状があります。
でも、子どもの親としてだけでなく、社会で生活する大人として、子どもたちの教育のためにもっとできることがきっとあるはず。
そこで今回は、保育に新たな視点を取り入れ、「まちの保育園」を設立した松本理寿輝さんにお話をうかがい、一緒にこれからの保育のあり方について考えていきたいと思います。
第1回は、「まちの保育園」の特徴的な保育内容をのぞいてみましょう。
保育園にいるあいだは、夢中になって取り組む“探究”の時間
「まちの保育園」には、時間割がないそうです。
午前中のこの時間からリトミック、午後の何時から英語…といったように、大人が決めた時間割の中で子どもたちが動くようにはなっていません。
生活リズムを整えるという意味で、ランチとお昼寝の時間は決まっていますが、それ以外の時間は子どもたちが自ら時間の使い方を決めて行動するのだそう。
「私たちがしているのは、子どもたちが主体的に“探究する”ことができる環境づくり。プロジェクト型アプローチと言われることもありますが、知識伝達型ではなくて、子どもたちが自ら集中して活動ができるような環境を作っています」
子どもの教育は、現在、世界規模で、知識の量を問う知識伝達型の学習から、自らが得た知識をどのように活用するかという方法に変わりつつあります。
平成32年度から、日本の小学校でも学習指導要領の改訂が行われ、そこでは、討論や体験学習などを通し自ら課題を見つける「アクティブ・ラーニング」の学習手法が取り入れられるといわれています。
そうした学習の基礎を培うのは、0歳から6歳までの時期。
この時期に子どもたちの「こころが動く」場面を生み、子どもたちの中から出てくる興味・関心・意欲に向き合う、学びのための豊富な資源、生きた素材をいかに用意できるかということが、子どもたちの学びにとって非常に重要だと松本さんは語ります。
「まちの保育園」の1日
「まちの保育園 小竹向原」幼児クラスのある1日を例にあげると、朝の登園後は、子どもたちが集まって先生と一緒に何をしたいかと話し合う朝の会の時間。
「昨日の粘土遊びの続きをやりたい」「ダンボールハウスをつくりたい」「音楽会をやりたい」など、子どもたち同士がいろいろ語り合って、その日の活動を決めます。
午前中は、そうやって決まったいくつかのテーマにそって、小グループに分かれて探究する時間。
そして昼食の前には昼の会を行い、「午前中に何をやってどう面白かったか」「何が難しかったか」などを子どもたち同士が発表し合います。
そうした時間を通して「子どもたちが自分で決めたり、ほかのグループの取り組みについて興味をもってみたり、友達と話し合って社会を作っていくということを体験してほしい」と松本さんは語ります。
「子どもたちが自ら興味を持ち、その興味が広がっていく。
そこから学びにつながっていくように、子どもたちとの関わりを工夫しています。
やっぱり子どもの心が開いているとき、心が動くときって、もっとも深い学びにつながりやすいと思うんです。
そういう機会を作るために、保育者は子どもたちの興味や関心がどこにあるかということをきちんと捉えることが大事。
子どもたちが『わぁっ』と興味を持つその瞬間を拾って、それをいかに深めていくか、どんな環境構成や支援ができるかということを大切にしています」
地域と園を結ぶ「コミュニティコーディネーター」
「まちの保育園」の特徴的な取り組みのひとつとして挙げられるのが「コミュニティコーディネーター」の存在。
地域と園を人的なつながりで結ぶ専任職員です。
地域の歴史や文化的背景、地域資源を調べたり、子どもたちが出会って面白そうな人や施設を探したり、逆に地域からの声を拾って子どもたちとつなぐ役割を担ったりしている…とのことですが、具体的にどんな活躍をされているのでしょう?
「あるときみんなで散歩をしていたら、『鳥の声が聴こえるね』と子どもたちが言い出したんです。
保育者がこの子どもたちの興味をどんなふうにふくらませていこうか…と考えていたときに、コミュニティコーディネーターが、地域で鳥に詳しい人の噂を聞いていて。
そこでその“鳥博士”にコンタクトをとり、保育園に来てもらったんです」
鳥博士と園児たちとの活動は、フィールドワークに始まり、近隣企業の協力で巣箱を設置するなど、まさに地域を巻き込んでの一大プロジェクトとなりました。
このほかにも、たくさんの地域に住んでいらっしゃる方、働かれている方が、子どもたちの学びに関わってくれているといいます。
「0~6歳は、人格を形成する上でも、重要な時期だといわれています。その時期に、多様な人格に出会うことが大事。子どもたちの興味や関心がどこにあるかということを大切にしながら、地域の人的資源をさまざまな場面で活かしていくことができればと考えています」
地域の人びとと保育園をつなぐ中間領域である「カフェ」
さらに驚きなのが、「まちの保育園」にはカフェが併設されているということ。
小竹向原園には、行列のできる人気ベーカリーカフェ「まちのパーラー」が、六本木園には「まちの本とサンドイッチ」というお店が併設されています。
また、吉祥寺園は、園内に地域の人も利用できるカフェ的なスペースが設けられているそう。
「地域の方が訪れやすいような場を作りたいと思ったんです。保育園との関わり方には、人それぞれの距離感があると思います。
子どもたちの様子をなんとなく見ながら『何か自分もできるんじゃないか?』と思ったら声をかけられるくらいの距離がいいなと考えていて。
そのためには、ただ自分の読書の時間を持つためだけに訪れたり、コーヒーを飲んだり、地域の大人がそのまんまいられる場所がいいんだろうなと」
一見、突飛とも思える「保育園とカフェ」ですが、これは、地域の人たちがそれぞれ園や子どもに関わる距離感を選べるようにしたいという思いから作られたものでした。
次回は、こうした「まちの保育園」のさまざまな取り組みの根幹となる理念をさらに深く解説。教育や社会など、今の子どもたちを取り巻く環境にも触れながらご紹介します。
本宮丈子
ライター/エディター