2016.02.22
“子ども”に向き合うことで、ママも育つ
子どもだけじゃない! 大人も輝く
保育園の新しいカタチ
~まちの保育園 松本理寿輝さんインタビュー~
人生に大きな影響を与える0~6歳までの時期に、多様な人格とふれあい、自ら考え行動する力を身につける。
そのための理想の保育環境を考え、地域コミュニティとの連携など“まちぐるみの保育”を志す「まちの保育園」の取り組みや理念をこれまでご紹介してきました。
その取り組みを伺ううち、働くママとして、社会に生きる大人として、私たちが子どものためにもっとできることがあるのではないかと思いました。
「まちの保育園」を設立した松本理寿輝さんに、そのあたりも踏まえ引き続きお話をうかがいました。?
保育園で、大人も育つ、学べる
保育園は、一義的にはやはり子どもが育つ・学ぶ場所という役割を持っています。
しかし、大人たちにとっても自己充実や自己実現ができる地域のコミュニティセンターのような場として使ってほしい、と語る松本さん。
実際に、「まちの保育園」では、すでにそうした動きも始まっているそうです。
「大人たちが楽しそうにしていたり、ワクワクしていると、子どもにも伝わりますよね。お母さんが元気だと子どもも元気になるし、反対に落ち込んでいると元気がなくなる。ということは、大人自身もすこやかであるということが大事なんです」
親をはじめとして、周りの大人が楽しく充実した社会を築いていれば、それが子どもたちに還元されていく。
子どもは、大人たちが考えていることや社会のことを、私たちが思う以上にきちんと理解できているもの。
すでに1歳ごろから、自分が今どういう状態に置かれていて、どのようにふるまえばよいかを考えて行動する社会性が芽生えているといいます。
「そのために、大人たちがそもそも信用に足る社会を形成できているか、楽しく生活ができているかというところが大事なのではないかと。大人も子どもも豊かな暮らしを実現していくための、ある種インフラとして、保育園が機能することができたらと思っているんです」
「まちの保育園」の理念は私たちにも実践できる!
そうはいっても、「こういうことをやってください!」と自分の子どもが通っている保育園に掛け合うことは現実的になかなか難しいし、かといって自分たちで一から保育園を作るわけにはいきません。
しかし、「(まちの保育園の理念を実践するときに)規模感は関係ない」と松本さんはいいます。
「たとえば、日時を決めて、大人たちが子どもの保育について学び合いの場を持つということでもよいのではないでしょうか。外部講師を招いて教えを乞うようなものではなく、話し合うんです。そういう対話の場をつねに設けて、子どもを自分たちはどう捉えているか、それぞれの子ども観や育児観を話すことで、お互いに参考になって深まりあっていく。
または、もっとみんなで楽しめるイベント的なものでもいいかもしれません。なんでもいいんです、編み物でも、ヨガでも、お花でも。最近自分はこういったものにハマっているとか、夢中になっているとか、そういったものをお互いに紹介しあうようなものもいいかもしれませんね」
親である私たち大人も、それぞれみんなバックグラウンドがありさまざまな人生を送ってきていて、ひとりとして同じ人生を歩んでいる人はいない。
それを子どもも含めて、みんなで共有していくことで、お互いに新たな可能性に気づくきっかけになるのでは。
「潜在的可能性は、子どもだけではなくて大人も持っているといわれています。他者との関わりの中で引きだされていく自分の新しい能力というものがある。『もっと自分にも可能性がある』という前向きな気持ちを持ちながら子育てをしていくのって、とても意味があることだと思うんです」
これからの保育がめざすもの
最後に、松本さんがこれからめざしているものについてお聞きしてみました。
「仕組みやモデルにこだわらずに、市民社会・市民文化を醸成するようなことを考えていきたいなと思っているんです。どういうふうに子どもを育てていきたいか、育ってほしいかということを考えて、じゃあ、そのために私たち大人はどうあるのがよいか。そうした中で、大人自身も楽しく期待や希望が持てる、という世の中の状況を作っていきたいと思っているんです」
また、保育園を取り巻くさまざまな境界線を取り払っていきたい、とも。
「たとえば、“地域”と“保育園”のあいだにある境界線。
わざわざ“地域ぐるみの保育園”って言わなくても、それが当たり前になるのがいいなと思っています。
ほかにも “ビジネス”と“教育”だったり、あるいはもしかすると“子ども”と“大人”もそうかもしれません。私たちは、子どもという存在を一市民としてとらえるのではなくて、安易に“子ども”と定義して、大人が教えたりケアしたりしていかなきゃいけない存在なんだというふうに捉えすぎちゃっているのかもしれない。
当たり前のことなんですが、子どもにも人格や人権があるということを改めて意識して、対等に付き合っていく。そういう目に見えない境界線を取り払ったり、境界そのものについて改めて考えることによって、見えてくるところがあるんじゃないかという気がしています。
ちょっと漠然としていますが(笑)、そこに向かって、みんなができることを一歩ずつでも進めてみるのが大事かなと思っていて。そのためにまず私たち保育園としては、地域とともに豊かに成長していくということに対して手をかけていきたいですね」
働きながら忙しく子育てをしていると、とかく子育てについて効率的なマニュアルを求めてしまいがち。
また、自分のことに対しても、子育てと自己実現は切り離されたところで考えてしまうことが多いように思います。
でも、少し目線を変えて、一歩を踏み出すことで、自分の仕事や自分の生き方、子どもの育て方や子ども自身の人生に関しても、もっとよりよくする方法を考えていけるのではないでしょうか。松本さんの語ってくれたお話は、そんな可能性に気づかせてくれました。

本宮丈子
ライター/エディター