2015.06.09
別居生活で学んだ“根を張って生きる”こと(前編)
吾妻リエさんの助けられ力【伝える力】
家族を築く中で知った実家のありがたさ
ご主人と別居して5年になるリエさん。現在は、実家から歩いて5分ほどのところにマンションを借り、小学5年生と3年生の娘さんと3人で暮らしています。この家に引っ越したのは昨年の秋。その前は、実家に身を寄せていました。
「実家があったからこそ、今生きていられているような感じです。家としては独立しましたが、今も両親にお世話になっています。ご飯を食べさせてもらったり、娘の面倒を見てもらったり、ちょっとしたことが助けになっていますね。精神面でのチャージとでも言うのでしょうか。夫と別居した私が背負ったものの重さを忘れさせてくれました。実家がなかったら……ということを考えると怖いですね」
リエさんがご主人と別居した理由は、義実家との関係。ご主人が前職をリストラされたため、金銭的に厳しくなり、ご主人の実家を頼ることに……。しかし、引っ越して3カ月も経たないうちに同居を解消することになってしまいます。
「問題が山積みのところに嫁に行ったことで、いかに自分がいいところで育ててもらったかを知りました。でも、夫の実家をいい方向に持っていこうとしても、嫁の立場では踏み込めないところが多くて……。夫の助けになれないことも多く、無力だなあと感じます」
このまま夫の実家に暮らしていては、子どもたちにも悪影響があると決断したリエさんは、小学校に上がったばかりの娘と幼稚園に入ったばかりの娘を連れて実家に戻りました。
「別居の理由などは、子どもだから話さないのではなく、自分の子どもだからきちんと話していこうと思っています。同時に、『家族っていいよね』ということも伝えていきたいなと」
三歩進んで二歩下がる夫との関係
実家での同居を経て、昨年の秋にリエさんは娘2人と独立した生活を始めるようになりました。引っ越しを機に、夫ともメールでのやりとりが増えました。また、夫も新しい職場での仕事が順調で、うまくいけば「また、一緒に暮らせるかも……?」という希望も見えました。しかし……
「夫と関係が修復したかのように思えたんですが、また一気に関係性がこじれてしまったんです。誰しもがいい方向に向かっていると思っていたんですが……」
3月の半ば、「お花見に行きたい」と夫から連絡があり、久しぶりに家族4人でお出かけをすることに。久しぶりに会った娘たちは、最初のうちこそ「パパ、パパ!」と喜んでいたものの、しばらく時間が経つにつれ、すっかり歓迎モードは薄れて普段と同じ調子に……。父親に対する歓迎ムードが薄れてくると、ご主人も「新しい住まいには自分の居場所がない」「娘も知らないうちにぐっと大きくなっていて、いつの間にか自分が知らないことばかりするようになっている」などと感じていたようす。気づくと、ご主人はむっつりしていて、食事の後、みんなで入ったカラオケボックスからいつの間にか出て行き、戻ってこなくなってしまったのです。
「伝え方って難しいですよね。夫とは昔から不思議なくらい噛み合ないんです。良かろうと思ってやったことが、裏目に出てしまう。私の伝え方がへたくそなのかもしれないけど……」
でも、「家族は大切!」と伝えていきたい
「子どもは本当にいい子に育ってくれて、願わくば円満に離婚できたらなと思ったこともあります。でも、自分がスッキリしたからといって、子ども達は……? と考えるとやはり踏み切れない。夫は夫で子どもを大切に思っているので、離婚したら親権の問題も出てくるでしょう」
そのため、別居が長引いても離婚には踏み切れなかったといいます。しかし、ご主人とは「離れていても家族」という気持ちをリエさんが強く持っているためでもあります。
「子どものためを思えば、やはりお父さんがいて、お母さんがいて……という家庭が理想。違った環境で育ってきた同士が結婚し、お互いに協力しながら子どもを成長させていく。違った2人がそれぞれ子どもと向かいあうことで、情緒面でもいい展開の仕方をすると思うんです。夫婦だと中立になるところも、1人で子育てをしていると、自分の思いで動かしてしまいがち。こんなときに、多様性って、まずはお父さんとお母さんから覚えるんだろうなあと感じます。だから、家族内での人間関係がうまくいけば、コミュニケーション力が高い子になれるんじゃないかなとも思います。子どもたちがこれから仕事や恋愛や結婚をしていくという長いスパンで考えるとやっぱり家族っていいなあと思います」
とはいえ、お父さんが家庭の中にいないのも事実。そして、家族4人揃っての生活はリエさんが強く願ったところで、ご主人の実家の問題も絡んでくるため、なかなかスムーズに実現することはできません。
「自分の境遇を悲観するのもどうかと思います。それに、大人になったときに、『ウチはお父さんがいなかったから……』と言ってほしくない。だから、『お父さんは一緒に過ごしていないけど、絆って見えないところにあるんだよ』と節々で伝えて、父親の存在を記憶に残してもらえるようにはしています。あとは、夫の悪口は言わないようにしていますね。別居してから特に、家族の営みって社会の縮図だなと感じるんです。だからこそ、『家族っていいよね』と伝える。これは自分の核の部分ですね」
まるでパオのような家庭
リエさんは、結婚してから夫の2度のリストラ、2度の大きな引っ越しという転機があり、その都度、現実と向き合って行動してきました。その柔軟な姿は、まるで遊牧民のよう。家庭はパオのように移動しては、そこで根を張り生きていく。
今は、実家の近くで娘2人と3人で生活をしていますが、またご主人の仕事に変化があったり、お互いの実家に変化があったりしたら、おそらく家も暮らしもまた変わっていくことでしょう。
「私の人生って、すごく流動的。こうしよう、ああしていこうと決めて動くというよりは、流れ着いたところで根を張って、ここでうまくやっていこうとコツコツやりはじめる。でも、その根も一生物ではないんですよね。だから、根は張るけれど、まだ流され、また辿り着いたところで根を張って……と繰り返すのかなと思っています。とりあえず、今をちゃんとやっていけば、将来もなんとかなるんじゃないかな。でも、両親の介護問題も遠くない未来にやってくるだろうし、なんせ問題が山積みな家なのでヒヤヒヤしています」
どんなできごとが起きても、どこに住むことになっても、その場所で現実と向かい合って、より良く生きていこうとする姿は母という生き物を感じさせられます。まるで開拓民を彷彿とさせられる吾妻さんを見ていると、家族は小さな社会で、ここから大きな社会へと家族の個人個人が羽ばたいていくのだなと気づきます。
家族としてその地、その生活に根を張ること。これが子育てをする上で大事なことかもしれないなと思いました。
中編に続きます。