2015.05.14
【禁断の不倫小説】子どもが寝てから読みたい…心がヒリヒリする、お金と愛をめぐる物語
本好きライターママが薦める「読んでよかった〜」
『紙の月』
角田光代著
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不倫、横領、逃亡…。ワイドショー的ワードにドキドキ
どんなに忙しい一日でも、子どもが寝静まってからの小一時間を自分に使うことでリフレッシュできます。ゆっくりと読書をしたり、録りためたドラマを見たりするのも夜の静かな時間。そんなときには、たまには現実からぐっと遠ざかって、ちょっとキケンな小説を読むのもいいかな、と思うのです。
去年の秋、宮沢りえさん主演で映画化された、角田光代さん著作の「紙の月」。本好き友達が皆こぞって「時間を忘れて読んだ!」とお薦めしてきた一冊です。去年大ブームになった不倫ドラマ「昼顔」を、毎週こっそり楽しみにしてきた私。非日常小説でドキドキする時間をもう一度、と読み始めてみました。
子育てをする今の自分からほど遠いところにあると思っていた、不倫、横領、離婚、などのキーワード。重苦しくどろっとした愛とお金をめぐるストーリーに引きずり込まれ、いつのまにか主人公の梨花と一緒に、逃げるようにページをめくり続けていました。
女性の金銭感覚って、歪んでる?
夫婦生活に違和感を覚え、とあるきっかけで大学生の光太と出会って、五万円、十万円…と横領を重ねていく梨花。最初は小さな火種だったその犯罪は、徐々に熱量を持ち、そしてどんどん麻痺してゆき、いつしか手の付けられない額(1億円!)になってしまいます。
一方、梨花のかつての同級生である木綿子は、スーパーの安売りチラシを見ながら、「梨花ちゃんはどんな生活を送っていたのだろう」、「1億円ってどれくらいのものなんだろう」と思いをめぐらせます。木綿子はいつのまにか、梨花の事件に翻弄されていってしまうのです。
子どもがいない兼業主婦の梨花をはじめ、ワーママや専業主婦、バリキャリ、愛人気質の女など、本著には様々な女性たちが登場します。そしてみなそれぞれ、買い物中毒や、いきすぎた節約、男へ貢ぐのが止められない…など、お金に対する「歪んだ」感覚を持っているのです。
そんな女性の金銭感覚を通して、ママ友や同僚など、他の家庭の懐事情が気になって仕方ない「女性の本質」を見抜いているようで、ドキッとする場面が多々ありました。様々な女性の就労や結婚に対する意識や金銭感覚などが透けてみえる、社会派小説とも言えるでしょう。
たまには、人生の「もしも」を考える時間を
子育てに夢中になっていると、「もしも子どもを産んでいなかったら、私の人生はどうなっていただろう?」という仮定を想像する時間があまり持てません。
でも、こうして小説を読むことで、「自分の人生には、もしかしたら違う選択肢があったのかも」という万能感に近い感覚を持つことは、けっしていけないことではないのだと思います。
夜な夜な偽の証書を作る梨花の姿を想像すると、愛なのか、お金なのか、何を求めて走り、そして何から逃げているのか、もはや当事者ですらわからない悲しさのなかに、かすかに「どこへでもいける解放感」を感じました。
梨花には共感できないところもたくさんあるけれど、どこかで少しうらやましいと感じてしまうのは、私だけではないはずです。女性の心のうちを描くのに長けている著者の筆力に圧倒されました。
ちなみに、同じく角田光代さんの「森に眠る魚」は、母親の孤独とママ友トラブルの心理を描いた小説。次はそちらも読んでみようと思ったのでした。
<お薦めしてくれたワーママ>
R.Eさん。二児の母でライター。無類の本&演劇好きだけど、最近は読書も観劇もする時間がないのが悩み…。好きな作家は、舞城王太郎、古川日出男。好きな劇団は「劇団、本谷有希子」。
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浦和ツナ子
ライター/編集