2015.11.10
【心理学博士に聞く】「〜したら〜してあげる」ご褒美で釣って子どもの行動を促していい?
イヤイヤ期の小さな子がなかなか言う事ことを聞かない時に、ついつい使いがちな「○○したら、××してあげるよ」の攻略法。
BRAVAの記事「【言ってはダメ!?】子どもに言ってから後悔する言葉 BEST5! その後の対応どうする?」でも働くママたちの言いがちな言葉として3位になっていました。
ご褒美を掲げて何かをさせるのって、やっぱりよくないのでしょうか? 東京学芸大学の岩立京子教授(心理学)は「必ずしも悪いことではありませんよ」と言います。ただ、エスカレートしていかないためのコツもあるようです。どんなコツなのでしょうか?
「ご褒美=悪いこと」ではない
大人の意向に沿って動いてくれない子どもに対する、「○○したら××してあげるよ」というごほうびでの攻略法。「物で釣って何かをやらせる」というイメージが強く、なるべく避けたいと思う人が多い一方、ついついこの手に頼ってしまうという声も多く聞かれます。
岩立先生の見方は……?
「これはあまり悪いことだとは思いません。駄々をこねたりぐずったりして子どもが聞く耳を持たない時、気分転換をさせてあげることが大事です。毎回毎回このやり方1本だと困りますが、その子の自己コントロールや自立に向けた1つの方法として悪いことではありません」
覚えておきたい、ちょっと気になるご褒美のインパクト
「ただ、ご褒美については気をつけておきたいことがあります」と岩立先生。えっ!? 何でしょう。とても気になります。
「ご褒美というのは、子どもにとってとても強烈なインパクトを与えます。本当に自分にやる気があって頑張って何かに取り組んだのに、『自分の意欲で取り組んだ』ことより、『ご褒美をもらって嬉しかった』ことの方がその子の中でクローズアップされ、やる気をそいでしまうという見方もあるんですよ。ただお菓子を与えて何かをやらせるというのではなく、一緒に食べて『おいしいね』と気持ちを共有したいですね」
ご褒美を上手に使って気持ちを切り替えさせる
「小さいころは、子どもが自分をコントロールするきっかけとしてご褒美を上手に使ってみるといいですね」と岩立先生は提案しますが、どんな風に使うといいのでしょうか?
「例えばDVDを何本も観たいとき、1本観たらジュースを飲もうと誘う。そのままだとまた観たい、またジュースを飲みたいとなってしまうので、今度は外で遊ぼう、お風呂に入ってアヒルさんで遊ぼうなど、切り替えるきっかけを与えてあげてほしいですね。子どもというのは、今楽しんでいることは、ほかの楽しみがないとなかなか切れないものなのです」
幼児期後期になると、ご褒美の位置づけも変えていった方がいいようです。
「年長さんぐらいになったら、今日はスペシャル、ご褒美はいつもはもらえない特別なものという形にしていけるといいですね」と岩立先生。
ごほうびのエスカレートを防ぐには?
ご褒美の困ったところとして、「エスカレートしてどんどん要求するようになるのではないか」と感じているかたもいるのではないでしょうか。
「例えばいつもいつもミニカーをデパートにいくたびに買い与えていて、それを急に今日は買わない!と変えるのは難しいですね。そんな時は、『今日はソフトクリームにしよう』という形でミニカーへの執着をそらすなど、スモールステップで少しずつ切り替えていくと受け入れやすいこともありますよ」と岩立先生。
何かを買い与えるのは一緒なので、どんどんわがままになってしまうということはないのでしょうか? 岩立先生は「実はそんなことはないんです」ときっぱり。
「子どもも少しずつ成長していく中で世界が広がっていき、1つのことだけにこだわらなくなっていきます。3歳にもなると、言葉の理解度も進み、気持ちの駆け引きも生まれ、説得も効くようになってきます。スモールステップで焦らず、まあいいかという気持ちで取り組んでいけるといいですね」
また、遊びにきてくれたおばあちゃんなどが次から次へとお菓子を与えるので、甘いものの摂りすぎの恐れはもちろん、お菓子というご褒美の新鮮さが下がってしまうというシチュエーションもあります。
上手な対処法はないものでしょうか? 岩立先生のアドバイスはこちらです。
「まずは、おばあちゃんが来て嬉しい、みんなが心地よいという雰囲気を大切にしたいものですね。なかなかおばあちゃんにこちらの意向を理解してもらうのって、難しいものです。例えばダラダラと与えるのではなく、小袋に入れて回数を決めて渡してもらうなど、一緒に工夫をしてもらうのも1つの方法ですね」
「○○しないと××してあげない」を避けたほうがいい理由
一方、言い回しは似ているけれど、「○○しないと××してあげない」という、ある意味脅迫のような言い回しはどうなのでしょうか?
岩立先生は「強い言い方なので言うことを聞かせることはできるかもしれません。でも例えば『○○をしないと動物園にいかないよ』という内容の、○○をしなければいけないことと動物園に行くことは、別問題。一番の楽しみを持ってきてそれと引き換えに何かをさせるというやり方ですね。誰もが何度か言ってしまうことはあると思いますが、できれば避けたほうがいいでしょう」。
その上で岩立先生は付け加えます。「『○○しないと××してあげない』と言われたとしても、その子も成長すれば、なぜ○○しないといけないのかがわかってきます。絶対に言ってはいけない言葉というわけでもないと思います。でもできれば、『○○しないと、これができなくなっちゃうよ』『○○できなくなっちゃうから、頑張ろう』という方向に持っていきたいですね」
しつけの効果はいつ出るもの?
岩立先生にとても励まされたのが、「しつけというのはこちらの働きかけと子どもの成長が相まって、少しずつ効果を発揮していくもの。今ここでこの子に言うことを聞かせるために私が何とかしなければならない!と思わなくて大丈夫ですよ」というお話でした。
親はどうしても、即効性を求めてしまうものですが、子どもの育ちを気長に見守ることもしつけであるという視点をいただきました。自由人のお子さんに振り回されている、というママ、パパたち、気長に向き合っていきましょう!
<専門家プロフィール>
岩立京子●東京学芸大学教授・東京学芸大学附属幼稚園園長。専門は発達心理学と幼児教育。Eテレ「すくすく子育て」に出演するなど、子どもの心の発達としつけのエキスパート。
千葉美奈子
ライター