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2016.08.02

貧困家庭・ひとり親家庭を支援する「無料学習会」ってどんなところ?


現在、約6人に1人の子どもが貧困だというデータがあります。「お金がないから参考書が買えない」そんな子どもがわたしたちの周りにも少なからずいます

そんな子どもたちのために無料で学習会を開設しているNPO法人キッズドア理事長の渡辺さんに活動を始めたきっかけや、日本の貧困の現状についてお話を伺ってきました。

家庭の経済状態で学習の機会が奪われる子どもたち

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-この活動はどんなきっかけではじまったのでしょうか?

キッズドアは2007年の1月に立ち上げました。きっかけはイギリスから帰国して、日本の子育ては非常にお金がかかる、と実感したことでした。 塾や習い事をさせたいのに、家庭の経済状態によってはできない。そのため学習のチャンスを失ってしまう子が多いのはもったいないですよね。そういう子どものために、支援団体を探したのですが当時はどこにもなくて、自分でやるしかないと立ち上げました。2010年から無料学習会をはじめ、今年で7年目になります。

-子どもの貧困問題が表面化したのは最近ですよね。

2007年に立ち上げた当時は、日本にも子どもの貧困があるということ自体があまり知られていませんでした。今は多くの方が「重要な課題だよね」と認識してくれています。

-どんな家庭環境の子が多いですか?

母子家庭が多いです。ほかにも年収は低所得ではないけど子どもの人数が多い、祖父母の面倒を見ているという方もいますね。一見普通のご家庭でも、きょうだいが多いとすごく大変なんです。そうなると、普通の収入があったとしても経済的に厳しいですよね。

-生徒募集や告知はどのようにしていますか?

無料学習会を始めた当初は、生徒さんを集めるのが大変だったのですが、メディアにだしていただいたりしたことで申し込みが来るようになりました。今はホームページからの申し込みと、あと行政から委託されている教室は福祉課などからの紹介もあります。

-申し込みはお子さん自身が? それとも親御さんから?

親御さんが多いです。日々の勉強もそうですが、特に高校受験が心配ですよね。

-塾に行ける、行けないで、合格する高校も変わるという話を聞いたことがあります。

ほとんどの子が塾通いをしている中で、塾に行けないと模擬試験も受けられない。だから自分の偏差値もわからないので、学校選びも難しくなるんですね。学力だけじゃなくて情報面でも、塾に通える子どもよりも不利益が生じてしまいます。

教育は社会全体に影響する

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-「大学に行くんだよ」って言いながら育てるのと「うちはお金がないから行かなくていい」と言うのとでは、子ども自身の考え方も変わってきそうですね。

違いますね。親が非正規だったり離婚していたりで「うちにはお金がないから」と大学進学をあきらめてしまうこともある。夢も持てないし努力もしなくなっちゃうんですよね。それって非常にもったいないことだと思うんです。

-経済的な理由で進学できないことが、社会全体に及ぼす影響も大きいですよね。

よく自治体の方にする話ですが……例えば、ある中学生がいて、その子の成績が非常に悪くて、入れる公立高校がない。それで高校受験をしなくても、中卒で働ける仕事は少ないですから、フリーターになる。若いうちはよくても、年をとって体を壊したりすると生活保護受給者になりかねない。生活保護って、ものすごく福祉予算を使うわけですよね。

でも、同じ子が勉強を教えてもらって「勉強って楽しい」と気づいて、高校や大学に進学し稼ぐようになると、税金を納める側になります。例えば、生活保護になった場合と大卒で税金を納める側になった場合の差を考えますと、学習支援の効果は1人当たり1億円くらいになるのではないかと試算しています。一人だけでもすごいコストメリットがあります。

また、先日、日本財団が試算したのですが、現在15歳の1学年だけを取っても、子どもの貧困をこのまま放置しておくと稼げる額が減って、さらに1.1兆円福祉予算が膨らむ。2.9兆円のGDPが下がってしまいます。

-1学年だけで2.9兆ですか!

皆さん「低所得でかわいそうな人たちの問題だ」って捉えがちですが、財政が厳しい中で、お金が稼げる子になっていくか、それとも福祉で支えなきゃいけない子になっていくかで全然違ってきて、それは確実に、すべての人の生活に響くわけですよ。

将来の問題と考えがちですが、今の中学生に対しては、今すぐやらないと一生働けなくなるかもしれない。できるだけ早いうちからやったほうが、本人にとっても一番いいし、ものすごく財政的なメリットも大きいです。

貸与型ではなく給付型の奨学金制度を

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-貧困は自己責任だという人もいますか?

貧困の連鎖は、ただ親の所得が低いとか、景気が悪いからという問題ではなくて、構造的な課題です。日本は教育就学前と中学校卒業後に、ものすごく親に経済的な負担がかかりますよね。こんなに大学に学費がかかる国はほかにない。学力の壁ではなくて経済力の壁が大きいんです。

-国の制度で何とかできないんでしょうか?

今、私たちが力を入れてる活動は、国として給付型の奨学金制度を作ってもらうということです。今は制度がないから、学年で成績がトップの子も家計が厳しければ借りていくしかない。でも、例えば、年収500万のお家の子が、毎年100万円の奨学金借りる、というのはイメージしやすいですが、年収120万円で毎年100万円を借りるのとなると「とてもじゃないけどそんな大金借りられない」「もし返せなくなったらどうなるんだろう」と考えますよね。結局「無理!無理!」とあきらめ「(経済的に)どうせ大学に行けないし」と思い、そこで成長が止まっちゃう。

-ちなみに海外ではどうなんですか?

海外では「教育は国が公平に与えるもの」というのが、基本的な考え方です。ヨーロッパでは大学の学費自体が無料だったり、年間10万程度だったりとても安いんです。アメリカやオーストラリアでは、学費はすごく高いけれども、給付型の奨学金がたくさんあるので、それで大学に行く。日本だけが、学費も高くて奨学金もないという唯一の国。おかしいですよね。

日本の「貧困」の問題は、ひとり親家庭だから、所得が低いからということだけではなく、日本の教育にかかる費用が高すぎる!と指摘した渡辺さん。たしかに、以前BRAVAで紹介した記事「私立」と「公立」進学費用トータルでどれくらい違う?でもわかるように、この金額払えるのだろうか?と不安になってしまうような金額です。では家計の問題で、進学を断念する子どもたちが教育を受け将来を切り開くにはどうしたらよいのでしょうか? そのへんは後編でお伝えします。

 

【NPO法人キッズドア】

日本国内の子どもの貧困支援に特化し活動しているNPO法人キッズドア。すべての子どもが夢と希望をもてる社会の実現の為に、低所得の家庭の子どもたちに向けて無料学習会などを開催しています。

【渡辺由美子さん】
千葉大学工学部出身。大手百貨店、出版社を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。 2000年から2001年にかけて、家族でイギリスに移住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験する。準備期間を経て、2007年任意団体キッズドアを立ち上げる。2009年内閣府の認証を受け、NPO法人キッズドアを設立。日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、活動を広げている。

インタビュー/齋藤有子

曽田照子

曽田照子

ライター・子育てNGワードの専門家

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