2020.04.30
金銭的理由で進学できない子どもへ!諦めずに道を切り開くためにできる事とは?【無料学習会理事に聞く】
前回に引き続き、貧困家庭を支援するNPO法人キッズドア理事長の渡辺さんのインタビュー。
「本当はたくさん勉強もしたいし大学も行きたい」という気持ちがあるのにも関わらず、学力ではなく経済力の差で進学をあきらめる子どもたち。あきらめずに将来を開く道はあるのでしょうか。
無料だからこその難しさ
-来ている子どもたちのやる気はどうですか。
最初はみんなやる気がないです。そこは普通の塾とは全然違っていますね。勉強に興味もないし、やる気もないし、さらにできないしという子たちが多いですね。何かの原因で勉強に躓いて、それがそのままずっと積み上がり劣等感を抱いています。そのため、最初から勉強させようと思っても無理。
まずは初回の授業は、子どもたちと仲良くなることだけを目指します。初めのうちは、10分やったら15分休憩、10分やったら15分休憩と徐々に勉強する体制をつくっています。特に英語と数学はしっかり教えて、国・理・社は勉強の仕方を主に教える感じが多いですね。
-学校では、授業についていけない子はおいて、先に進まざるを得ないですよね。
学校の先生は行事などで忙しくて、勉強を教える時間自体がすごく少なくなっています。先生によっては遅れている子だけを残して補習をしたりするのですが、ほかの保護者から「なんであの子たちだけひいきする」とか「あの先生はやってくれるが、この先生はやってくれない」などとクレームが入りできなくなるなど、学校内にも課題が山積みです。
本当は学校との連携ができればいいのですが、実際はなかなか難しいですね。
学生ボランティアも大きく伸びる
-授業はどのくらいの時間やっているのですか?
たいていは2時間ぐらいが1パッケージです。でも高校受験対策だと、塾だと直前期になると週4以上じゃないですか。2時間だととても追いつけないので、週1回、朝の10~17時か9~16時で、5教科全部教えています。
教えるボランティアさんも1日がかりですね。
-教える方も大変ですね。ボランティアで教えているのはどういう方なんですか。
社会人のかたもいますが、大学生が多いですね。 大学生がいいのは、子どもたちと話が合うんですよ。アイドルとか、ゲームとか、サッカーチームとか「昨日どんなテレビ見た?」なんて話ができるので、子どもたちは、勉強はそんなにしたくはないけれど、楽しいからまた来週も来ようと思う。
そのうち勉強が少しずつできるようになってうれしくなる。できるという成功体験で自信がつき自分でも勉強するようになる。
—このサイクルをつくることが大切なんですね。
私たちの学習会は全部無料です。無料ということは、実はものすごくハードルが高くて、無料だったら別に学習会に行かなくてもいい。月謝払っていると、親も「あんた、月謝払ってるんだから行きなさい」って、行かせようとするじゃないですか。でも、無料だからこそ、行って意味がないと思ったら、来なくなります。
多くの子が来てくれているのは、子どもたちにとって魅力がある場所だということ。これはボランティアさんの努力だと思います。みんなすごく献身的に、本当に一生懸命やってくれます。
—学生ボランティアさんも大きく成長しそうですね。
彼らの多くが「大学に行くのがあたりまえ」という環境で育ってきた学生たちです。それが「1500円の参考書を買ってもらえるかどうか」と心配する中学生や、家族が遅くまで仕事をしているため、自分でご飯を作って食べるという子どもに接して、いかに自分が恵まれていたかに気づくんです。
さらに、やる気のない子どもたちをどうやって勉強させるかを考えたり、議論したり、教材を工夫したり、コミュニケーション能力が格段に上がっています。ここに来たことで自分の進路が明確になり、ボランティアの大学生にとっても成長の場になっています。
-NPOなどこのような活動を目指す大学生も多いですか?
ボランティアに来てくれるのはありがたいし、すごくいいことですが、就職先にNPOはすすめません。どこも小さくて不安定だし、せっかく志を持って大学まで進学したのだからNPOで活動するよりも、稼いで経済を回したほうが社会のためになります。特に女子学生たちには活躍して欲しくて「出世して社長を目指してね」と送り出しています。
すべての人にとって最重要課題
-この課題はもう個々の家庭だけの話ではないですよね。
学歴がないので非正規の仕事で所得が増えない、だから結婚もできないし、子どもも産めない。今、20代で結婚して子どもを持つなんて贅沢だよ、と言う人がすごく増えてきています。少子化がどんどん進んで、稼げる人の数がどんどん減っていく、すると全体として稼ぐ力がなくなって、衰退してしまう。今、一人一人の子どもを大切にしていくことが、すべての人にとっての重要課題なんです。
-私も自分の時間ができたら参加したいです。
子育てが落ち着いたら、ぜひ来てください! 実際に接していると、子どもたちも生き生きとして元気だし、若いボランティアさんは成長する、活動も楽しくて、すごくいい仕組みです。
親としては「お金がないから進学はあきらめて」と、言いたくはありません。でも、あまりの教育費の高さに悲鳴を上げたくなることもあります。雇用も不安定な時代ですし、誰がいつ、貧困に陥るかはわかりません。そういった意味では、キッズドアの活動はとても頼りになる、大事な取り組みだと感じました。
ひとりの子どもが将来、稼いで支える側になるか、それとも福祉で支えられる側になるかは大きな問題です。教育にお金がかかりすぎるというそもそもの仕組みは、いま現在大人である私たちが変えていく必要があると思います。
【NPO法人キッズドア】
日本国内の子どもの貧困支援に特化し活動しているNPO法人キッズドア。すべての子どもが夢と希望をもてる社会の実現の為に、低所得の家庭の子どもたちに向けて無料学習会などを開催しています。
【渡辺由美子さん】
千葉大学工学部出身。大手百貨店、出版社を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。 2000年から2001年にかけて、家族でイギリスに移住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験する。準備期間を経て、2007年任意団体キッズドアを立ち上げる。2009年内閣府の認証を受け、NPO法人キッズドアを設立。日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、活動を広げている。
※この記事は2016年8月に公開された記事です。
インタビュー/齋藤有子
曽田照子
ライター・子育てNGワードの専門家