2019.02.28
【専門家インタビュー】発達障害・グレーゾーン、子供の成長と将来の不安への対処法とは?
「ウチの子、もしかして発達障害?」不安に思うことは、実は多くのママ・パパが経験しています。でも発達障害についてはなかなか周囲にも聞きづらく「いきなり病院で診断してもらうっていうのも・・・」と迷うことも。そこで、発達障害やグレーゾーンの子ども支援の活動を幅広く行っている野添絹子先生に、発達障害について様々な角度からお話を伺いました。第一回の記事では「発達障害かも?と疑った時の対応、グレーゾーンの子どもについて」が
テーマでしたが、第二回の今回は、
・発達障害の疑いから将来への不安に対して
・発達障害を持つお子さんに親はどう接するのが良いのか
・お子さんの側で頑張りすぎてしまいがちなママ・パパに対するアドバイス
についてお伝えします。
発達障害・グレーゾーンの子どもの成長と将来への不安
編集部:発達障害やグレーゾーンのお子さんを持つ親にとっては、小学生になり、中学高校大学への進学、さらには社会人になってからのことは大きな心配かと思います。まずは、こういったお子さん達は、どのような進路をたどるのでしょうか?
野添「発達障害の場合、知的能力によって支援の内容が異なるので、特別支援学校に行ったり、通級による指導を受けて、単位制高校に進んだりするケースをよく聞きます。グレーゾーンのお子さんの場合は、通常学級に在籍しながら進学ですね。このようにいろいろです。
近年、診断を受けた生徒さんが大学に進学したり、グレーゾーンの生徒さん達のことが教育の世界でよく話題に上がったりするようになりました。そこで、私は「日本の2Eの学生と社会人の現状」について調査したことがあります」
2Eとは
Twice exceptional。発達障害と同時に高い知能や才能をもつという意味。アメリカで行われている2E教育の目的は、それら両方を支援すること。「ギフテッド(神様から与えられた生まれつきの資質である高い才能を持つ)と発達障害」と称されることもある。
編集部:例えばですが、発達障害では大人になってからどんなことにつまずいたり、問題を感じたりするのでしょうか?
野添:「ASD(自閉症スペクトラム)の大学生の場合だと、自分のやり方にこだわりすぎて教授に反抗的だと思われたり、ゼミのディスカッションで本人は反論しただけのつもりなんだけど、相手を不愉快にする発言を繰り返して浮いてしまう、共同で実験を行う時にペアの相手を怒らせたり、一緒に組むのを嫌がられてしまった、というトラブルがありました。言い方があまりにもストレートだったり、自分本位の発言が多かったりしたからです。ASDの場合、相手の心情や状況把握が苦手だからこうなるときがあるわけで、障害特性のためだと理解してもらえないケースが多々あり、「ワガママ」「自分勝手」だと解釈されてしまうんですね。
この調査では、社会人になってからの現状もヒアリングしています。大学なんかは専門性の高い、自分の興味がある学問を学べるので、実は小中学生の頃より快適にすごせる子が多いんですね。しかし、社会人になってから、やはりそれぞれ問題を抱えることがあります。ただ、このぐらいの年齢になると、失敗を繰り返す中で学んだり覚えていったりすることも沢山あります。年齢と共に経験値が増え、トラブルは多少なりとも減る傾向にありますね。」
編集部:うーん、発達障害となったら生涯大変なんでしょうか・・・。
野添:「発達障害では、認知機能の凸凹が極端なわけです。得意な面があるいっぽうで、特定のことが非常に苦手だったり困難だったりします。今日、その調査資料を持参していますが、認知機能の極端な凸凹の状況について、ASDとLD(学習障害)の診断を受けているある当事者が『まるでレーシングカーで公道を走るような感覚だ』と表しています」
編集部:将来はなかなか難しい状況になる、ということですか?
野添:「いえいえ、発達障害と同時に、もうひとつ、才能の方を見つけてあげて、伸ばしていく、この考え方によって、発達障害を持つお子さんの将来は切り開いていけます。
こんな風に考えてみて下さい。コミュニケーションをとるのが苦手で、正義感が強すぎたり、自分のやり方を押し通そうしたりするASDの人がいたとします。こういった人が仕事として教師になったとします。様々な個性のある多くのお子さんを柔軟に指導して、異なる教育観を持つ同僚の先生方とうまくやっていくのは非常に難しいです。親対応もあります。でも、別の仕事ならどうでしょうか。
コミュニケーションがさほど必要ではない職種、SE(プログラマー)や研究者のようなスペシャリストなら、環境が整えば比較的苦労をせず、自立もできるでしょう。自分で完結できる仕事を選ぶ、周囲との軋轢がない職種を選ぶように導いてあげることが重要なんです。適材適所です。本人が持っている才能、得意なことを最も発揮できる場所を見つけてあげる、見つけられるようサポートするということですね」
編集部:それが2E、つまり凸凹の凸を活かした将来に導くこと?
野添:「はい。しかし、この2Eを勘違いしている人がいるので少し説明させて下さい。才能の部分ですが、確かに時々、発達障害の天才的なピアニストだったり、飛び抜けて数学に秀でていたりする人がいます。天才型は、芸術系や理系にけっこう多いんです。芸術系の場合、アール・ブリュットやアウトサイダー・アートと呼ばれる作品は本当に素晴らしいです。理系の場合、人の心とか、本を読んで著者や主人公の気持ちを理解するのは不得意だけど、数学のように回答への道筋がハッキリしていることは得意なわけです。数字の「1」は絶対に「1」ですから。ASDの人は、答えが一つしかないことに安心感があるんですね。
でも、アメリカの学校教育の中で行われている2E教育の場合、その才能=天才的なレベルを指しているわけではないんです。アメリカの学校では、支援を受けながら大学進学をする発達障害の生徒たちの多くが2Eと言われています。実際の2Eの生徒たちは、天才というよりも、平均よりも少々高めのIQを持つ、認知機能の凸凹がかなりある普通の生徒たちです。
だからこそ、才能は、その子の持つ良いところ、生涯楽しく生きていける軸のようなもの、2Eの才能の部分をそのように理解して欲しいんですね。そういう考え方が診断を受けた人たちとグレーゾーンの人たち、そして、周囲の人達に広がれば、もっと楽に生きられるのではないかと私は思います。親は、子どもが得意なことを活かせるようになるサポートをしてあげて欲しいのです」
編集部:適材適所で働くことができれば自立もでき、親の不安も減りますね。
野添:「最初にお話しした通り、発達障害は完治するということはありません。適した場所に就職したとして、それがゴールではありません。早期離職が問題になっています。仕事をする上で、やはり、それぞれのこだわりとか、トラブルのようなことはあるでしょう。生涯のサポートが必要なんです」
親がエネルギーを使い果し疲れ切ってしまわないために
編集部:親としてはずっと子どもを支えていかなくてはならない、それはどの親も一緒ですが、特に発達障害あるいはグレーゾーンのお子さんに対して、親が必死に導こうとしてエネルギーを使い果たして疲れ切ってしまうという声をよく聞きます。親としての接し方についてアドバイスをお願いできますか?
野添:「まず可能なら、お母さんひとりで何でもやろうとしないことです。大事なのは、お母さんひとりで頑張りすぎないことです。発達障害やグレーゾーンのお子さんの場合、一番側にいるお母さんがとにかく頑張りすぎてしまう。でも、お母さんも自分へのご褒美や、自由な時間を持って欲しいです。これは長い道のりなんです。母親はまず自分自身を大事にしなくては、子どもを大事にはできません。
家族といえば、兄弟姉妹もです。どうしても親は発達障害の子にかかりきりになり、兄弟姉妹は後回しになってしまいがちです。いつも我慢している兄妹のために、時にはお母さんを独占できる時間を作ってあげることも大切ですね」
編集部:長い道のり・・・確かにそうですね。発達障害あるいはグレーゾーンのお子さんを持つ親御さんは、わが子とどう向き合うのが良いのでしょうか。
発達障害・グレーゾーンの子どもを育てる5つの対処法
野添「そうですね、では、わかりやすく5つにまとめましょうか」
1:親子関係
できない事も含めて、しっかり受け止めてあげることが大事です。子どもに安心できる、受け入れてもらえるという居場所を作ってあげて下さい。例えば学校などで発達障害のために辛い場面があったとしても、家という、家族という自分の居場所があれば、どれほど心強いでしょうか。子どもが親に対して絶対的信頼感を持てたら、外でどんなに辛いことがあっても、まっすぐに生きていけます。2:生活リズムを整える
寝る時間と起きる時間をしっかりさせること。睡眠障害を持つお子さんが多いですし、大きくなると夜中にゲームをやったりします。当たり前のようですが、きちんとした生活リズムを作ってあげることで学校にも行きやすくなります。3:叱り方に気をつける
字義理解と文脈理解というのがあるのですが、字義理解は言葉単体に対する理解、文脈理解は言葉をこえて全体的に理解することです。わかりやすい事例を出すと、親子で車に乗っていて、お母さんが後部座席に置いてあるバッグからハンカチを取り出したくて、子どもに「信号を見ていてね」と言いました。気づくと後ろからクラクションを鳴らされたので、お母さんは子どもに「信号を見ていてって言ったじゃない!」と責めました。でも子どもは「僕、ちゃんと見ていたよ」と答えたのです。
子どもの言う通りで、この子はちゃんと信号を見ていたのです。お母さんの意味は「信号を見ていて=信号が青になったら教えてね」であり、これが文脈理解です。私たちは文脈から判断するのを当たり前のようにしていますが、ASDのお子さんは字義理解が多いのです。
お子さんがグレーゾーンの場合は、親は無意識のうちに会話していることが多いので、気を付ける必要があります。
別の事例ですが、お母さんはついつい「そんなことする○○ちゃんは嫌いよ!」と怒ってしまうことが多く、小学生のお子さんはどんどん言葉が荒れて、行動も荒れてしまいました。字義理解をするお子さんは、嫌いという言葉だけを認識し、嫌いよ!はそのまんま、お母さんは自分を嫌いだというという認識になって、自己否定に繋がってしまったのです。注意機能に問題があるお子さんの場合、はじめの方に発せられたことばを認識しないことがよくあるので、〝そんなことをする〟は、子どもに伝わらないのです。子どもが発した、いけないことばそのもの、望ましくない行動そのものを注意することが大事で、「どんなことをしたから、いけなかったのか」をちゃんと説明してあげる叱り方が発達障害のお子さんには必要です。どの行動がいけなかったのか、具体的に何がダメでいけないのか、と字義、つまり言葉でしっかり指摘して叱ることが必要なんですね。それを実践したら、実際にそのお子さんはガラッと変わりました。
野添:「信号の例に戻れば、お母さんが「信号を見ていてね。それで、青になったら教えてね」と言えば、その子はきっと理解して、その言葉通りにできたんです」
編集部:具体的な理由や指示を伝えてあげる、叱り方を意識することが重要なんですね。
野添:「ええ、とても大切だと思います。他の事例もあります。あるお母様から相談がありました。このお母様には有名進学校に通うグレーゾーンの高校生のお子さんがいます。かなりASD傾向が強いタイプのお子さんです。ある程度大人になってから診断を受ける場合は、二次障害を起こして、というケースが多いので、このお子さんは、ご両親に理解があり、学校に恵まれているのだと思われます。
ちなみに、二次障害とは、身体症状としては、頭痛、腹痛、食欲不振、チックなど、精神症状としては、不安、うつ、緊張、興奮のしやすさなどから不登校やひきこもり、暴力、自傷行為などを起こすことです。
この子が、親が離婚しないか心配して、かなり落ち込んでしまっているということでした。夫婦でたまに口論になることがあるそうで、口論の際の語気の強さなどから離婚を心配するようになったそうです。お母様は、信頼関係があるからこそ、何でも言い合える夫婦関係もあるということを説明したそうですが、字義理解のお子さんは、いくら説明してもわかってくれなかったそうです。「それなら、なんでケンカをするの?仲が悪いからケンカをするんでしょう!?」と。ことばにしばられて、全体を見て総合的に判断すること(≒文脈理解)ができないのです。
こういったお子さんは、国語の読解問題が苦手です。主人公がどのような心境なのか、想像できないからです。数学の成績が良くて、国語、特に物語文や小説が苦手な場合は、気を付ける必要があります。論説文は得意なケースが多いのですけどね」
4:友だちが一杯いるほうが良いと思わない
ひとりの時間を楽しめるならそれでいいんです。友だちがいないことを親が責めると子どもは傷つきますから、友だちがひとりでもいればいいね、ひとりの時間でも楽しくすごせればいいね、と語りかけてあげて下さい。そもそも診断を受けたお子さんだけでなく、ASDのグレーゾーンのお子さんも、上手にコミュニケーションをとるのが難しいのです。このようなところに、○○ちゃんはどうして友だちがいないの、がんばって友だちをつくろうよ、と言ってしまったら、お子さんは友だちができない=いけないことだ、自分はダメなんだと思ってしまいます。5:親御さんにはおおらかさを持ってほしい
なかなか難しいですけどね。おおらかさを持つためには、すごく簡単に言えば本音トークができる人がいることが大切です。可能ならば、同じような経験をした少し年上のお母さん、愚痴も言えて、今、辛いんだけど、と話ができて経験からくるアドバイスを貰える相手がいるといいですね。とにかく、本音で愚痴を言える相手、もちろん夫でもいいし、母親でもいいでしょう。そうすれば、お母さんのおおらかさを保つことができるのではないでしょうか。おおらかさを持てれば優しくなれるし、心がズドーンと落ち込むようなことをスルーできるようになります。
野添:「5つをお話しましたけど、細かいことを言えばいくらでもあるんですね、何度も言うように発達障害というのは人それぞれに症状が違うし、家族の関係性も、兄弟姉妹がいるとか、それも年上なのか妹弟なのかでも違うでしょうし、それによって本来はもっと様々なアドバイスやサポートもあります。でも、この5つを意識して頂ければ、と思います。
何より、私はそのお子さんをあるがままに、そのまんま、まずは受け入れてあげる、受けとめてあげることが大切だと本当に感じています。色々と不安だろうし大変でしょうが、お母さんお父さんも頑張りすぎず、お子さんをすっぽり両手で受けとめてあげて下さいね」
次回は、発達障害やグレーゾーンのお子さんを持つ親御さんが特に心配する「いじめられるのではないか」という点ついて、野添先生の具体的なアドバイスを紹介します。
<専門家PROFILE>
アミクス 代表 野添絹子さん
野添 絹子(のぞえ きぬこ)
教育学・神経心理学・認知心理学・英語教育を専門とし、発達障害の子どもとグレーゾーンの子ども支援活動を幅広く行う。また、相模女子大、国立看護大学校、国立病院機構、放送大学非常勤講師でもあり、「発達障害・グレーゾーン」のお子さんたちとその両親へのサポートを行う「アミクス発達支援プログラム教室」の代表でもある。著書に『子どもの才能チェックBOOK』(小学館)他。
【企画協力】
いじめのサインを見逃さない こどもをマモルサービス
株式会社マモル
大橋 礼
ライター
年の差15歳兄弟の母。DTP会社勤務後、フリーで恋愛・料理・育児コンテンツを執筆中。今や社会人長男のママ仲間とは「姑と呼ばれる日」に戦々恐々しつつ、次男の小学校では若いママ友とPTAも参戦中。飲めば壮快・読めばご機嫌!本とお酒があればよし。