2023.12.08
【婦人医に聞く】ひどい生理痛がある人はピルや漢方を処方、病気を疑ったほうがいい?
戸田さと美のWoman Life Care Planning Vol.4
生理不順などの症状がない人であれば、毎月必ず1度くる生理。
人によってはこの時期を憂鬱に感じるかたも少なくないかと思います。
BRAVAで同時公開された記事「重い生理痛がサインだった 妊娠をきっかけに見つかった重い病気とは?」のユーザー体験談をもとに
生理痛の起こる仕組みや原因、生理痛から考えられる病気について、広尾レディースクリニック院長の宗田聡先生にお伺いしました。
生理痛の原因は2種類
戸田さと美(以下:戸田):はじめまして。今日は、生理痛(月経痛)についていろいろお話しをお伺いしたいと思います。早速ですが、生理が起こる仕組みを簡単に教えていただけますか?
宗田先生:生理痛の原因は、大きく分けて機能性と器質性の二種類に分かれます。わかりやすく説明すると、器質性はなんらかの病気があって、そこからくるものです。代表的なものとしては、子宮筋腫、子宮内膜症などです。
機能性というのは、見た目上病気ではなくて生理痛がおこるものをいいますね。
出産経験のない女性は、子宮の出口が狭いですから、生理によって剥がれる子宮内膜を外へ出すときに、非常に出にくいため抵抗があるんです。
イメージとしては、マヨネーズの先が、狭いと出すのに力がいるのに似ています。そういう痛みは、病気があるわけではないのですが、やはり経血を出すときに子宮が強く収縮しますから、痛みが伴うということなんです。
出産をすると月経の痛みが和らぐケースが多いのは、出産によって子宮の出口が広がるためです。
それから、女性の場合は精神的なストレスが原因で、生理痛に影響する場合も少なくありません。
出産経験の有無に関係なく、仕事が忙しくなったり、極度の緊張状態が続いたりすることが生理痛に影響する場合もあります。
生理は子宮や卵巣の働きで起こりますが、その大本は脳の下垂体というところからホルモンが分泌され、それが指令となって卵巣に働きかけ、排卵周期を起こす生理現象ですから、ストレスに非常に左右されやすいものなんです。
経血の量が多い人のほうが生理痛がひどい
戸田:そうすると、生理痛がひどい人と、ほとんど痛みがない人との違いは、ストレスや病気ではない限りなんなのでしょうか?
宗田先生:そうですね、多くは生理の量(剥がれる内膜の量)でしょうか。量が少なければ当然出ていくものが少ないわけですから、痛みとしては少なくなります。
過多月経といって、ものすごく経血の量が多い方だと、レバーの塊のようなものを出さなければならなくなりますから、当然痛みも大きいわけです。
ですから、生理の量が多い方に生理痛のひどいかたが多い傾向にありますよね。
戸田:生理が多いか少ないかは、自分のことしかわからないので、判断するのは難しいですよね?
宗田先生:そうですね。診察の際は、ナプキンを交換する頻度などを聞いたりします。
例えば、1〜2時間で交換しないと漏れてしまうとか、昼間から夜用を当てていても、1〜2時間ごとに替えなければいけないという人、もしくはタンポンも入れて、さらにナプキンもつけて…という人もいますね。そういう方は明らかに多いといえます。それから、凝結塊(ぎょうけつかい)と呼ばれている、レバーみたいな塊がボコボコ出てくる方も多いと判断してもよいでしょう。
鎮痛剤の飲み過ぎは注意!副作用も
戸田:そうすると、生理痛がひどいと判断する基準も難しいですよね?
宗田先生:そうですね。患者さん本人が、ひどいと思えばそれはひどいと言えますからね。痛みは人と比べられるものではないですし、耐えられる痛さがどれくらいなのかも人によって違いますよね。目安としては、1回の生理の中で痛み止め(鎮痛剤)を服用するのが2〜3錠で済めば、許容範囲だと思っています。でも、5〜6錠をこえるとか、1日に何度も鎮痛剤を服用するレベルだと、これは本当にひどいと言えますよね。
私はひどい生理痛でお悩みの患者さんにピルや漢方などを処方しています。
患者さんにピルを処方するとき、みなさん副作用の心配をされるのですが、実は鎮痛剤の方がとても強いお薬で、副作用もあるんです。
人間は痛みに弱いですから、例えそのお薬に強い副作用があると知っていても、今の痛みから解放されるなら飲んでしまうんですよ。そして効果があったら疑いもしないですしね。
鎮痛剤は本来そんなに気軽に飲むお薬ではないんです。1回1錠と書いてあるのに、勝手に2錠飲んじゃう人もいますし、3〜4時間おきにどんどん何錠も飲んでしまう人もいますし。それは逆に体を壊してしまうんです。
戸田:確かに、薬局などで簡単に手に入りますしね。
先日、生理痛でお悩みの読者さんをインタビューさせていただいたのですが、その方の場合は初潮からずっと生理痛がひどく、鎮痛剤を飲まないと倒れてしまうくらいだそうです。副作用も体を冷やすくらいにしか思っていなくて、たくさん飲んでしまっていたのですが、ほかに体にはどんな影響があるものなのですか?
宗田先生:胃腸系にものすごく負担がかかります。胃腸に穴が開いたり(消化管穿孔)、胃炎になったりする人もいますし、頭痛がひどくなったりします。。いいことは無いですね。
鎮痛剤って、痛みをわからなくするくらい強いお薬ですから、ここぞ!という時以外は気安く飲むものではないんです。胃薬やビタミン剤ではないので。割とみなさん気軽に飲み過ぎているような気がします。
それから、まわりの同性の対応も問題です。例えば昔の女性は、痛いものは我慢するものという考え方がありますよね。
お母さんが、娘さんに「毎月のものなのだから我慢しなさい」といって、我慢させすぎて痛みを理解してあげないでいるのもどうかな?と思います。自分のことは他人の尺度で判断してはいけないですよね。
戸田:おっしゃる通りで、インタビューした読者さんも、お母様の生理痛がひどくて、それを見ているし、みんな我慢しているのだから我慢するしかないという判断をしていて、ずっと病院に行かなかったということでした…。
生理痛から考えられる病気
戸田:ひどい生理痛から考えられる病気には、どのようなものがありますか?
宗田先生:器質性の場合疑われる病気として多いのは、子宮内膜症と子宮筋腫の2つです。
子宮内膜症は詳しくいうと、子宮以外の部分(卵巣や腹部で)で内膜と同じように毎月そこから出血してしまうという病気です。
一方、子宮筋層内に出血を起こす、子宮腺筋症という病気もあります。腺筋症というのは、内膜の細胞が子宮の筋層(筋肉の中)にあるために、生理のたびに筋肉の中で出血してしまい、またそれが外に出ることができないので、当然ものすごく痛くてつらい病気です。
昔は子宮内膜症と腺筋症は同じ病気として扱われていて、子宮腺筋症を内性と呼んで分けていたことがあります。
子宮筋腫はとても多い病気で、女性の2〜3人に1人は持っている病気です。
癌と違って悪いものではない良性の腫瘍です。子宮の筋層にできるコブみたなもので、子宮の壁中にできたり、子宮の内側に飛び出したりといろいろです。特に、子宮の内膜側に子宮筋腫があると出血が増えるんですね。正常な内膜でない部分があるということになるので、過多月経になり、生理痛は強くなります。
戸田:腺筋症や子宮筋腫になりやすい体質というのはあるのですか?
宗田先生:この2つは原因がわかっていない病気なのです。ただ、最近は、女性のライフスタイルが変わったことが原因ではと言われています。
みなさん子どもを産まなくなりましたよね。それが病気の原因のひとつではないかとも言われています。子宮筋腫とか子宮内膜症は、全て女性ホルモンに影響されている病気なんです。なので、妊娠出産授乳などを経験しないと、日々女性ホルモンの影響で症状が進んでいく事があります。
それを防ぐために、ピルを処方するのですが・・・。
ピルの処方についても、必ずといっていいほど『先生、ピルって副作用とか怖くないんですか?』と患者さんに質問されるんです。
でも、ピルは先ほどの鎮痛剤の副作用ほど重い副作用はなく、みなさんが思っているほど怖いものではありません。
また、『ピルを飲むような不自然なことをしたら身体によくないんじゃないですか?』とも聞かれるのですが、生物学的に診れば、今の女性の状態こそ不自然な状態にあるとも言えるんです。
なぜなら、初潮を迎えてから、20年も30年も妊娠をしないでいるということは、生物学的には一般的な状態ではないんですね。
昔は、10代後半になれば子どもを産んで、妊娠中と授乳中を含めると2〜3年は生理がないですよね。
それで、子どもを10人くらい産めば、おおよそ10~20年くらい生理が来ない状態です。
したがって、昔の女性は初潮から閉経までで、生理を経験する回数は50~100回くらいと言われていました。現代女性は仮に30代後半で独身、12〜13歳で生理が来たとしたら、20数年間生理が毎月来ていることになり、それだけで回数としては300回近く繰り返していることになります。
沈黙の病気”卵巣のう腫”
戸田:では、今回のインタビューした読者さんの例のように卵巣のう腫が疑われるのは、どのような場合ですか? ひどい生理痛のほか、もしくは同時に起こる症状というのはありますか?
宗田先生:卵巣のう腫については、原因がたくさんあります。卵巣が腫れるのを卵巣のう腫と言いますが、正確に言うと、卵巣腫瘍(しゅよう)と呼ばれ、その中で液体が溜まるものを嚢(のう)腫といいます。
卵巣腫瘍などは、通常、症状というものはありません。卵巣の病気というのは、“沈黙の病気”と言われていて、卵巣癌なども早期に気がつかれることがありません。あえて症状をあげるならば、腫れてきたものがねじれれば痛みを感じたり、すごく大きくなればお腹に圧迫感を感じたりします。
チョコレートのう腫と呼ばれる血液が卵巣に溜まってしまうタイプでも、ある程度大きくなって、痛みが伴ったりしないと自分ではわかりません。
もちろん、人間ドックや健診などで超音波検査をすればみつけられるものもあります。
ですから、下腹部の違和感など気になる人、生理痛がひどい人などは、卵巣が腫れているかどうかは病院で診察をしてもらはないと、わかりません。
戸田:今回インタビューした読者の方は、妊娠7ヶ月くらいで腫瘍が見つかったというお話だったのですが、その時はすでに腫瘍が大きかったらしいんです。それは、それだけ発見しにくい病気とも言えるのでしょうか?
宗田先生:そうですね。先ほどいったように、もともと卵巣の病気は非常にわかりにくいうえに、妊娠していることでさらに見つかりにくかったのではないでしょうか。
戸田:妊娠の検査と病気を発見する検査というのは違うものですか?
宗田先生:超音波検査をするという点では一緒ですが、大きさがそこまで大きくならなければ見つかりにくいですし、妊娠の経過を診るという目的で病院にいらっしゃれば、通常は子宮を、つまりお腹の赤ちゃんをメインにみますから、卵巣の病気に気づかれないこともあるでしょうね。ただ、妊娠してしまっている場合、婦人科系のどんな病気があっても、癌以外は結局何もできないんです。
今回の読者さんは癌とかではなかったのでよかったですけれども。
タレントさんでもいらっしゃいましたよね。妊娠してから子宮ガンがみつかり、赤ちゃんと一緒に子宮まで摘出せざるを得なかったというケースもあります。
妊娠中に卵巣嚢腫が破裂するとか、ねじれるとか、子宮筋腫がどんどん大きくなって、痛くて我慢できなくなってしまうような特殊な場合では、止むを得ず、妊娠していても手術をする場合はありますが…。
基本は、妊娠したら何もできないので、妊娠してからどうとかではなくて、妊娠を考えている時点で、婦人科できちんと診てもらうことがベストですよね。
いかがでしたか?
昔の人と比べて何倍も生理がきていることが自然な状態ではないというのは、考えてみればわかるのですが、少し衝撃でした。
そのようなライフスタイルを選択している現代人は、昔の人よりも体のケアが重要であるとも感じました。
次回は婦人科検診を受けるタイミングや生理痛を和らげる方法について宗田先生のお話をご紹介します。
宗田聡先生 広尾レディース院長
筑波大学を卒業後、同大産婦人科にて研修。H9年より同大学講師として臨床・研修・教育に従事。H12年タフツ大学(米ボストン)遺伝医学特別研究員。H15年水戸済生会総合病院産婦人科部長・茨城県周産期センター長などを歴任後、H17年パークサイド広尾レディスクリニック院長に。H24年より現職。現在、筑波大学大学院人間総合科学非常勤講師。「不妊治療ステップアップベストガイド」「産後ママの心と体をケアする本」「31歳からの子宮の教科書」
など著書・共著多数。
戸田さと美 プロフィール
PETAGO(株)代表取締役。Woman Life Planning代表。
シングルマザーとして、そして女性として、従来の枠にとらわれない自身の価値観を独自の視点で発信し続ける。自身の経験も含め、女性の素敵な生活提案を行っており、ライフワークとして始めたセルフプロデュースが口コミで広まり、講演も多数行っている。
また、女性特有のココロとカラダのバランスを見つめなおし、より良いライフプランの設計・行動に移すための第一歩を見つけるプロジェクトとして「Woman Life Planning」を立ち上げ、代表を務めている。
【記事まとめ】Woman Life ”Care” Planning
鬼石 有紀
美容ライター、妊活コンサルタント