2015.07.05
立場がかわれば・・・。「育休退園」問題で私が思うこと
埼玉県所沢市が打ち出した、保育園の2歳児以下のクラスに子どもを通わせる親が第2子以降を出産した場合、上の子を原則退園させるというルール。
待機児童対策として出されましたが、所沢市の保育園に子どもを預けている親たちが、退園の差し止めを求める訴えをさいたま地裁に起こし、注目を浴びています。多様な保育ニーズの受け皿が今後どのようになっていくのか、私自身も幼児を預けながら仕事をする身として、あれこれ考えました。
育休退園問題で思い出した10年前のこと
私が育休退園問題を初めて知ったのは、10年前、3人目の子である次男を出産した後。2人目の子の妊娠中に夫の転勤で引っ越した、首都圏の県庁所在地の都市でした。
2人目妊娠中~3人目妊娠中にかけて、保育士資格取得の勉強、受験をし、無事資格取得しましたが、当時、仕事はしていませんでした。
長男、長女は、次男が生まれる時点で、もうすぐ4歳と1歳半。引っ越したばかりの頼れる身内どころか友だちもほとんどいない土地で、親の病気時や出産後に利用できる保育園の緊急一時保育に長男と長女を2週間ほど預けて乗り切りたいと考えていました。
3人目出産前の臨月に入った頃、住いのマンションの隣りの認可保育園に相談したところ、男性の園長先生は開口一番「無理」、「在園児でいっぱいで、待機児童だっていっぱい抱えている」と。夫が2~3の園に問い合わせたところ、1つの園が、「今も余裕のある状況ではないけれど、2週間程度だったら」と受け入れてくれ、産後2週間を何とか乗り切りました。
歳の近い下の子が生まれると、外出もできず上の子のストレスは相当なものなので、2週間でも預かってもらえたことは本当にありがたかったです。
ベビーシッターやファミリーサポートなども利用できるのではないかと思われるかもしれませんが、費用面、保育の環境面を見ると、やはり認可保育園の緊急一時保育を利用できるのが一番助かります。
そして次男誕生後、3~4ヵ月たってから、その園が地域の親子対象に行っている親子の集いに参加しました。
そこに2歳と0歳の男の子を連れて参加しているお母さんがいたのですが、「現在育休中で、育休中は上の子は保育園をいったん退園しないといけないから、今、2人を連れて遊びにきている。復職時に2人一緒にこの園に入れるか不安」と聞き、そういう問題があることを知りました。
その時率直に感じたのは、「兄弟一緒の園に入れなきゃ大変でしょ!」ということ。その場に園長先生もいて、「2人一緒に戻ってきてほしいけど、今保育園に入れなくて待っている人もたくさんいるからね。どうなるかは私もわからない」と。
結果的にそのケースの場合は、お母さんの復職に合わせて、お兄ちゃんも下の子もその園に入れることが決まり、「それはよかったですねー!」「本当にホッとしました!」と会話したのを覚えています。
多様な役割を求められている保育園
こんな心配を抱えて育休中を過ごしている方もいるのだから、いくら身内がいない、上の子たちも小さいと言っても、自宅で見ることができる私が緊急一時保育を利用するのが難しいのは、仕方がないのかもしれないと思いました。
一方で、地域の子育て支援を担う役割と緊急一時保育の存在を明文化している保育園の中で、産後支援を求める家庭をはなからはねつける(はねつけざるをえない?)園がある状況に、大きな疑問を持ちました。
このとき、この育休中のお母さんが上の子を保育園に預けながら下の子と集いの場に参加していたら、私は少なからず複雑な気持ちを抱いたと思います。人は結構自分のことでいっぱいいっぱい。置かれた状況で、感じ方もガラッと変わるのです。
置かれた状況で感じ方も様々
月日は流れ……。
5番目の末っ子(現在3歳2ヵ月)の出産前、今と同じようにフリーランスで仕事をしていた私。杉並区の保育課から出産5ヵ月後に仕事を再開できなければ、4歳児クラスの三男は退園しなければいけないと言われました。
待機児童問題でしょっちゅうニュースにも登場する激戦区の中で、産後、上の子を今までと同じ環境でしばらく預けられることは、本当にありがたかったです。この期間に赤ちゃんをファミリーサポートなどに預けて、とにかく少しずつ仕事を再開しなければと思っていました。結局、産後3ヵ月で夫が転勤となり、引っ越すために退園することになりましたが……。
多様な保育ニーズに応えるための「子ども・子育て支援制度」
今回の所沢市の親たちの、「子どもを現在預けている園で安定した環境で過ごさせたい」という思い、すごくよくわかります。5つの土地で子育てをしてくる中で、環境の変化や転園は常に大きな悩みでもありましたから。
そして、1人目のお子さんを苦労して保育園に入れることができ、職場復帰したのに、保育園の問題のために次の出産をためらうような状況はつらいです。その一瞬のとまどいや迷いは他人が思っているより本当に大きなもので、妊娠や出産のタイミングを逃していくということもありえます。
働き方や家族の形態が多様化している中、保育園を取り巻く環境は本当に次から次へと課題が出てきますね。
今実際、様々な形で困っている人がいるという状況……。それを解消すべく、正にこの春、認定こども園の普及を図り多様な保育を提供することも目的の1つとして「子ども・子育て支援制度」がスタートしました。
現在私は、末っ子を函館市内の認定こども園(仕事をしている家庭には朝は7:45から対応、18:30まで預かり保育あり)の満3歳クラス(3歳になると入園できる)に預けて仕事をしています。
しかし、東京に引っ越した知人の話では、認定こども園も抽選制で入るのが難しいという話も聞きます。
末っ子が幼児のうちに東京に戻ったら、どこに預けられるのだろうか!?と、とても不安です。私自身も悩みは尽きません。子どもが幼児期を過ぎてしまうと当事者としての熱い気持ちはなくなりがちな保育園問題ですが、今後の保育の受け皿と環境整備を心から願います。
千葉美奈子
ライター