2015.07.30
「子どもは母親が家で見るべき」論はまちがっている!?
「時間がないワーママの子どもは愛情不足なのか?」をテーマに、働くママが子どもに与える影響について発達心理学のスペシャリスト齋藤慈子先生にお話をうかがう特別企画!
前回は、生物として人間が進化させてきた子育ての方法は、母親以外の存在が子育てに参加する“アロマザリング”であることを教えていただきました。
じゃあなぜわたしたち現代のワーママは、保育園や親に子どもを預けるときに後ろめたさを感じてしまうようになったのでしょうか。その理由には、「子どもは母親が家にいて見るべき」という価値観の刷り込みがあります。
“母が子を見るべき”は伝統じゃなかった!
0歳から保育園に預けると言えば「こんな小さいうちから人に預けるなんて」、子どもがわがままを言えば「お母さんが普段一緒にいてあげないからよ」などなど…年長者のもっともらしい言葉に打ちのめされたことがあるママはかなり多いのでは。ワーママが子どもに抱く罪悪感の背景には、母親が家にずっといて、朝から晩まで子どもの面倒を見てあげることが昔ながらの良き母の姿のように語られている現実があります。
「でも、もっともっと昔のことを考えてみると、農村などではお母さんも当たり前に働いていたんですよね。働きながら子育てをするのは当然のことで、たとえば嬰児籠(えじこ)に子どもをポンと置いておいて作業をしたり、お金持ちの家では少女を雇って子守をさせたり、というような子育ての仕方が普通のことでした。専業主婦が出てきたのは大正時代くらいからで、当時、一種のステイタスだったんです。日本が近代化していく中で、それが憧れの生活として理想化されていって、今の年配のかたの世代に価値のあるものとして刷り込まれているんでしょうね」
ひとりで育児をするほうが危ない?
それでも、母親がずっと一緒にいてあげたほうが子どもに良い影響があるに違いない…と思うかたもいるかもしれません。はたしてそれは本当にそうなのでしょうか?
「じつは、子どもとずっと家で向き合っている母親のほうが育児ストレスを感じている、というデータがあるんです。専業主婦と就労している母親、それぞれに調査を行ったところ、育児に対する否定的な感情は、専業主婦のほうが高かったという研究結果があります」
BRAVAが行ったアンケートの回答でも「1日じゅう子どもと一緒にいるとイライラすることはありますか?」という問いに全員が「ある」と回答していました。
例を挙げると、「甘えん坊で少しも1人遊びができず、寝ている以外は常にまとわりついてくる時期があったので(トイレまで!)、1人の時間がほしくてイライラしました」(M.Tさん、フリーライター、子ども11歳、8歳、1歳)
など、子どもとずっと向き合っていなくてはいけない時期にかなりのストレスを感じていたかたが多いようです。
ずっと一緒にいることは本当に子どもにとってよいことなのか?
「四六時中、子どもを100%見ているっていうのは、そもそもお母さんにとってよいことなのか、ということを考えてみてほしいんです。お母さんがストレスを感じてしまっている状態のほうが、それは子どもに良くない影響が出る。如実な例として、抑うつ状態のお母さんの子どもは『愛着』の形成がうまくいかないことが知られています」
愛着とは、幼児期の子どもの社会的・精神的発達に大きな影響を与えるといわれる心理学的な結びつきのこと。もちろん、専業主婦でも、周りに手助けをしてくれる人がいるかどうかでもストレスの度合いは大きく変わってくるはずです。ただ、子どものため、と言って自分を殺して、家の中でじっと子どもと向き合うことは、決してよいことではなく、かえって自分も子どもも追いつめてしまうことになるのではないでしょうか。
次回は、保育園に預けるときに大泣きをされてしまって心が折れそうになっているお母さん必見!離れているあいだの子ども側の心理についてお聞きします。
PROFILE
齋藤慈子(さいとうあつこ)武蔵野大学教育学部児童教育学科、講師。専門は比較認知科学、発達心理学。ヒトを対象とした研究のほか、マーモセットの養育行動や、ネコの社会的認知などの研究などを行っており、著書には「心理学研究法 4 発達」(分担執筆)、「飼い猫のココロがわかる 猫の心理」などがある。
【特集まとめ】
本宮丈子
ライター/エディター