2015.08.26
ママが病原!? 36年前の“トンデモ”育児書の内容とは?
育児書を何冊読んだことがありますか?
私はこの2年間で30冊ほど読みました。本によって切り口や主張が違うのが面白く、子育ての参考にしています。
つい最近、1979年に発売された『母原病-母親が原因でふえる子どもの異常』という育児書を読んでみましたが、現在と36年前の違いにひっくり返りそうになりました!
ぜんそくも不登校も、ぜんぶ母親のせい?
母原病とは、母親が原因で引きこされる病気のこと。著者は、ぜんそく、不登校、アトピーなども、原因の大半は母親の愛情不足や過干渉だと断定しています。
さらには、保育園に通い始めた子どもが風邪を引いた症例でさえ「母子分離不安が引き起こした母原病」と診断しているのにはびっくり。今なら「保育園の洗礼だよね」で済まされることなのに。当時のワーママの気持ちを考えると、胸が痛みます。
でもこの本、よく読むと母親個人を責めるばかりではありません。
地域社会の崩壊、核家族化、経済至上主義などの社会の変化が母親の育児スキルを下げたとし、母親は文明社会の被害者でもあるとしています。
ところが同じような内容を『先進国型の疾患と異常』というタイトルで執筆したけれどほとんど反響がなかったため、母原病という病名をつけたら大ヒットしたそうです。
社会のゆがみを、母親に責任転嫁したといえるでしょう。なんだかいい気はしません。
当時の母親は、なぜ母原病を受け入れたのか?
今なら批判が殺到しそうな本ですが、当時は育児書としては異例ともいえる売り上げを記録(続編を含めると100万部以上)し、母親向け勉強会のテキストとして使用されることもあったそうです。
なぜ「あなたは病原だ」という主張を、当時の母親は受け入れたのでしょうか。
当時は、今よりも「母親は家庭に」という価値観が強かった時代。だからといって全員が専業主婦を楽しんでいたわけではなく、閉塞感を覚えていた人も多かったはずです。本書の中にも「夫は仕事ばかりで育児に無関心」など、現在と同じ悩みを抱える母親が何人も登場します。
母親のせいで子どもが病気になるということは、言い方を変えれば母親は子どもの健康を左右する重要な存在であるということ。「育児の責任は私だけにある」と自分に言い聞かせたかったのかもしれません。
育児の常識は、時代とともに変わる
現在は共働き世帯が片働き世帯を上回り、ワーキングママも増加中。それとともに、育児の常識も変わりつつあります。
「3歳までは母の手で育てるべき」という考えは神話とされ、モーレツ社員(死語ですね)よりもイクメンが選ばれる時代です。『母原病』の中では、父親はオムツを替えたりミルクをあげたりしないほうがいいと書かれていますが、今では真逆です。
ママ向け交流サイトで母原病と検索してもほとんどヒットしませんし、“ぼげんびょう”は一発変換できません。現役の子育て世代には、忘れ去られた言葉といえるでしょう。
同様に、現在は広く受け入れられている育児方法も、将来的には覆されるかもしれません。それほど流動的なものなのです。
大切なのは、子育ての軸を持つこと
子育てをしながら仕事をしていると、古い常識を振りかざされて批判にあうことが少なくありません。
1歳児を保育園に預けて仕事をしている友人も、実母に会うたびに「子どもの将来は3歳までに決まるのよ」と言われ、実家への足がつい遠のいてしまうそうです。
でも、仕事をしているから子どもをないがしろにしているかと言えば、絶対にNO!
「こういう方針で子育てをしたい」という幹の部分がしっかりしていれば、枝葉の部分は自分と子どもに合った情報を、状況に応じて取捨選択していけばいいのではないでしょうか。
ちなみに私の子育てのポリシーは、「息子を、好きな仕事で食べていける社会人に育てること」。そのためには、母親が楽しく働いている姿を見せるのも大切だと思い、仕事を続けています。
平田けいこ
ライター