2015.10.06
公立保育園の民営化、どう変わる? 預ける側の不安とは?
各地で進む公立保育園の民営化。
自治体の運営費が削減できる、公立では取り組みにくい民間独自のサービスが期待できるなどのメリットも挙げられる一方で、保護者から不安の声が上がったり、運営上の課題も指摘されています。
公立保育園の民営化とは何か、民営化されると保育現場にどのような変化が起こりうるかを、民営化に直面しているママたちの声もご紹介しながら考えてみたいと思います。
進む公立保育園の民営化
国の官業民営化の方針の中で、ここ10年ほどの間、公立保育園の民営化が進んできています。
出産後も女性が働くことが珍しくなくなり保育園利用希望者が増え続けています。
それに伴い、求められる保育サービスも多様化しています。
特に都市部の自治体は、早朝夜間保育をはじめとする多様なサービスを提供したり、老朽化した保育園の整備など環境面を整えるために、今後ますます保育関連の経費が増えていくと予想し、民営化による経費削減、効率的な運営を目標に掲げています。
厚生労働省によると、保育園の民営化は各自治体の裁量で進められています。
保育園入園の激戦区として知られる東京都杉並区では「民間の活力を導入することで、民間ならではの多彩なサービスを提供できます。園舎の老朽化による建て替えなどのタイミングを見て公私のバランスを考えながら計画的に進めています」(保育課)としています。
ところで、民営化と言っても、民設民営(民間が設置し、民間が運営)や公設民営(自治体が設置し、運営を社会福祉法人やNPOなど民間に委託)などの形があります。
また、公立保育園が民営化されても認可保育園というくくりは変わらないので、自治体が定める保育料に関しては変わりません。
▼東京都の認可保育園の内訳(東京都少子社会対策部保育支援課に取材)を見ると、ここ5年で公立保育園が47園減、公設民営園が31園増、私立(民設民営)園が331園増となっています。
また、2015年7月に東京都が発表した保育所等の設置状況によると、認可保育所は2184園、認証保育所は700園。都のホームページによると、2015年9月1日時点で届け出済みの認可外保育施設は618園(ベビーホテル503、その他施設115)となっています。
民営化でどう変わる? 保護者達には不安も
民営化で一番大きく変わるのは、職員がすべて入れ替えになることです。
公立保育所の保育士は公務員として働き続けるので、保育士の平均年齢は公立の方が私立より高い傾向にあります。
私立には若い保育士が多いというイメージもあり、保護者からはベテラン保育士が確保された環境を望む声も聞かれます。
東京都23区内で現在、民営化のための園舎建て替えが進む保育園にお子さんを通わせるママたちに、不安や期待することなどを伺ってみました。
(Tさん、フルタイム会社員(育休中)、子ども・7歳、3歳、0歳)
先生方が全て変わり、親子共に慣れ親しんでいる園の雰囲気が変わってしまうことが不安です。
民営化への説明は、行政の方が保育園にいらして数回ありました。
担当者の説明では、運営主体の業者については複数の業者からより良い所を選ぶとの話でしたが、実際には2業者しか申込みがなかったそうで、選択肢が少ないと感じました。
行政側が掲げているように、民間のノウハウがより良く生かされるなら嬉しいですが、多種多様なニーズに応えるということだけで具体的なメリットがわかりづらかったです。
(Aさん、フルタイム会社員、子ども・7歳、3歳)
春に行われた行政担当者による説明会に、夫婦で参加しました。業者選定の経緯や、民営化によるメリットがよく見えませんでした。
やはり、先生が総入れ替えという点が不安。経験値が浅い先生が多くなる気がします。例えばリトミックや英語教室など個性的な保育が入ったとしても、それよりも生活面が大切だと感じています。
民営化をめぐって訴訟が起きたケースも
民営化をめぐっては、保護者らが民営化取り消しを求める行政訴訟を起こしたケースもあります。
【横浜市立保育園の場合】
保護者の同意が得られないまま早急に民営化されたことに対し、2004年に保護者と園児たちが原告となり、民営化取り消しを求める行政訴訟を起こしました。
原告側は一審勝訴、二審で逆転敗訴しましたが、2009年11月26日に最高裁は、保護者たちの訴えを実質認める「保育園を廃止・民営化した条例制定は訴訟の対象となる行政処分に当たる」との画期的な判決を出しています(ただし、取り消し請求については、該当する園児たちが既に卒園していることから、訴えの利益がないとして原告保護者らが敗訴)。
十分な説明と、よりよい保育環境を
現実的には、認可保育園に入れるかどうか自体が激戦の地域では、民営化に不安を抱きながらも、受け入れるしかないという状況があります。
育休中のママは「このご時勢に認可保育園に入れているので、ぜいたくは言っていられないと思っています。現在0歳の下の子が上の子と一緒の園に入れるかどうかが、生まれる前からの不安なので……」と話します。
難しいのは、子どもは成長しいずれ卒園していくので、当事者が変わっていくということ。
行政側としては数年前から民営化の方針を告知し、説明の機会を作ってきたとしても、新しく入ってきた園児の保護者にとっては、その機会がないうちに民営化が決まっていくこともあります。
ずばり民営化移行時期をまたいで在籍している場合は、建て替え時の仮園舎での保育環境も大切になってきます。
もし自分の子どもが通っている園に対し民営化の方針が持ち上がったり、既に民営化に向けて進んでいる際には、何ができるのでしょうか。
一番気になるのは、子どもたちの日々の生活がどのように変わる可能性があるのかだと思います。「よりより保育環境」を軸として、保護者側も情報収集をし、父母会などを通じて自治体に粘り強く疑問や不安を投げかけていきましょう。
自治体はぜひとも、保護者の立場になって意見に耳を傾け、また、民営化によって削減された経費がどのように子ども・子育て分野に生かされていくのかも地域住民に積極的に開示していってほしいと思います。
千葉美奈子
ライター