2015.11.09
【心理学博士に聞く】「早くして!」「あとでね!」 子どもを急かす・待たさないために効果的な工夫とは?
忙しいとき、心に余裕がないときについつい言ってしまいがちな「早くして!」「あとでね!」。
以前公開されたBRAVAの記事「【言ってはダメ!?】子どもに言ってから後悔する言葉 BEST5! その後の対応どうする?」でも働くママたちの言いがちな言葉として「早くして!」は圧倒的な多さで1位、「あとで」はついで2位になっていました。
働くママは子どもとの時間が限られている分、大人の都合でせかしたり、今すぐに気持ちに応えてあげられないことに凹むことも。
でも、少し声がけの仕方に工夫をするだけで、子どもへの伝わり方がぐんと変わるようです。東京学芸大学の岩立京子教授(心理学)にアドバイスをいただいてきました!
「早くして」「あとでね」を言わずに子育てができる?
子育てをしているとつい口をついて出てしまう「早くして!」「あとでね!」の言葉。
特に働くママは、時間に余裕がない中で言ってしまいがちなうえ、ゆっくりと子どもと向き合ってフォローする時間の確保さえ難しいことも。言ってしまって落ち込むことも少なくないのではないでしょうか。
これらの言葉を岩立先生は「では、こういう言葉を使わずに子育てできるかというとなかなか難しいですよね。ママたちも日々それを感じているのではないでしょうか」と捉えます。
そして、子育ての中でこれらの言葉を使ってしまう背景には、大人と子どものどんな違いがあるのかを解説してくださいました。
「大人の考え方や行動は、目的や効率が優先で、自然と無駄を省くように生活しているのです。だから、目的に向かっての時間調整や段取りの工夫が得意です。でも、子どもにはまだその力が十分育っていないので、目的に向かって攻めていく力が弱いんです。特に0~2歳ぐらいは、好きな方向へ好きな方向へと向かっていく年頃ですよね。
『早くして! 電車に乗るって言ったでしょ!』と言われた時に、『なぜ早くしなければいけないのか?』、『どうやれば早くできるのか?』を具体的にイメージできないのが小さな子どもなんです」
このギャップが、親にとっては自分の予想や期待をことごとく裏切られるように感じ、「許せない」「受け入れられない」という感情がわいてきてしまうのですね。
「なぜそうする必要があるか」をセットで伝える
では、どんな工夫をすると子どもにこちらの意図が伝わりやすいのでしょうか。
「なぜ早くする必要があるのかを、セットで伝えてあげてください」と岩立先生。
「大人の事情もあるでしょうし、子どもの幼いうちは必ずしも本当のことじゃなくてもいいんです。『アイスがとけちゃうよ』でも『パパが帰ってきちゃうよ』でもいい。単なる『早くして!』ではなくて、『そうしないとママ(=私)が困っちゃうんだ』と、自分を主語にして気持ちや状況を伝えてみると、相手が小さな子でも共感を得やすくなりますよ」。
言葉だけでなく、共同作業をしたり五感をフル活用して伝える
口で言うだけでなく、わかりやすい目安を作ったり、大人が一緒に作業をすることも、子どもの行動をスムーズにするそうです。
「早く行動してほしい時には『時計の長い針がここに来るまでにやろう』などと、目に見える形で目標を作ってあげるのもいいですね。
朝の着替えが遅い子には、前の晩に服を選んで、畳んで枕元に置くという作業を、一緒にやってみてはどうでしょうか。
服を自分で選ぶ場面を作ったり、「着替えなさい!」「起きなさい!」を「(大好きな)アンパンマンの服が○○ちゃんを待っているよー」と言い換えるだけでも、子どもの動きは変わるはず。手だてを示さずに責めるだけだと、子どもはなかなか変われないですね」
五感をフル活用することも大切だそうです。「朝なかなか起きない子には、朝食のおいしいにおいでも誘いかけましょう。離れた場所から『起きなさい!』と叫ぶのではなく、頬をなでたり手をギュッと握って『おはよう。朝だよ!』と声をかけてあげてみてください」
確かに、自分が言われる側になって考えてみると、心への響き方が全く違うことに気づきます。
「思い通りにならない」経験は成長に不可欠
「あとでね!」についてはどうでしょうか。
「遊んで」「絵本を読んで」などの希望にはできるだけすぐ応えたいと思いつつ、夕飯準備などの家事をしていると、どうしても「あとでね!」となってしまうのですが……。
岩立先生は、「面倒くさいという理由で『あとでね!』と言うのは、なるべく避けたほうがいいですね」としたうえで、「要望を少し先送りにする“満足の遅延”というのは、子どもの心の成長においてとても大事なんですよ」と指摘します。
「何でもかんでも自分の思い通りにならないということは、共同生活者として子どもにも少しずつ理解してほしいことですよね。子どもの要望全てにすぐに応じる必要はありませんが、子どもなりの納得を導いてやることは必要です。前向きに待てる力を育ててあげたいですね」
具体的に、洗濯物を取り込みたいときに子どもが「一緒に遊ぼう」とせがんできた場面を思い浮かべてみます。
まずは、「ママも今一緒に遊びたいんだけど……」と、遊びたいという子どもの気持ちを受け止めます。その上で、「雨が降りそうだから洗濯物を早く取り込んじゃわないとぬれちゃうもんね」と、今遊べない理由を説明したり、4~5歳の子だったら取り込んだ洗濯物を畳むのを手伝ってもらってもいいのでは、と岩立先生はアドバイスしてくださいました。
何をどう伝えるか
NGワードのイメージが強かった言葉は、言葉そのものが悪いのではなく、その言葉を使って子どもに何を伝えるか、どんな工夫をして伝えるかで、子どもへの伝わり方、響き方が全く違ってくることがわかりました。
「こういったしつけは毎日やるべきことであり、そして、子どもはすぐにではきちんとできないということを、親がまず理解する必要があります」と岩立先生。
そして帰宅後、先生のアドバイスを頭の隅に置いておくだけでも、子どもへの声がけや接し方に変化が出ることを感じることができました。皆さんも実践されてみてはいかがでしょうか。
<専門家プロフィール>
岩立京子●東京家政大学 子ども学部教授、東京学芸大学、教育学部、名誉教授。専門は発達心理学と幼児教育。Eテレ「すくすく子育て」に出演経験があるなど、子どもの心の発達としつけのエキスパート。
千葉美奈子
ライター