2016.02.04
誰もが持つ「若かりし日の後悔」に思わず共感! 笑って泣ける、東村アキコの自伝マンガ
漫画好きママが教える「読んでよかった!」
『かくかくしかじか』 東村アキコ 著
「浦沢直樹の漫勉」でも紹介された、2015年マンガ大賞受賞作
子どもたちを寝かしつけてからのわずかな時間、たまにお酒を飲みながら、本や漫画を読むのがささやかな私の楽しみ。
今まで広く浅くいろいろと読んできたのですが、昨年久々に心を揺さぶられる漫画に出会えました。
それが今回紹介する「かくかくしかじか」です。
きっかけは、たまたま見ていたNHKの番組。
日本を代表する漫画家・浦沢直樹が、普段はなかなか見られない漫画家たちの仕事場に潜入し、その創作の秘密に迫るという内容で、その日の取材対象が、この漫画の作者である東村アキコでした。
「ママはテンパリスト」「海月姫」などを書いていることは知っていたんですが、まだちゃんと読んだことはなく……。
でもその放送で、彼女がバツイチ一児の母で、どうやら私と同世代らしいこと。
漫画界屈指の執筆スピードで、毎月ものすごい量の原稿を書いていることを知って、「ワーママだから限られた時間で仕事を終わらせる努力をしてるのかも」なんて思ったら、俄然興味が出たんです。
特に、トークもキャラも面白そうなこの人が、あえて大変だった過去をさらけ出していると話題の自伝漫画で、2015年のマンガ大賞も受賞しているという「かくかくしかじか」がすごく気になって。
そこで、この放送後すぐに1~5巻(完結)を大人買い! 届いてすぐさま一気読みしてしまったのです。
自分の若い時の後悔が思い出されて、胸がしめつけられる……
舞台は作者の故郷、宮崎県。
少女マンガ家になることを夢見る明子は、美大を受験すると心に決め、友人の紹介で海沿いの小さな絵画教室に通うことになります。
そこで竹刀を振りかざしながらスパルタ指導をしていたのが、のちの恩師・日高先生。
明子にもほかの生徒にも言うことはただ一つ、「とにかく描け!」。
そんな厳しい先生との出会いから、受験デッサンの特訓を受けた日々、ザ・モラトリアムな美大生時代、会社勤めをしながら念願のデビュー~故郷との別れまで。
ずっと絶対の存在であった恩師との交流を中心に、マンガ家になるに至った過程が、ユーモアと切実さをもって描かれています。
まずは、自意識過剰だった昔の自分への容赦ないツッコミ、先生や友人などの濃いキャラクター、若さゆえのハチャメチャなエピソードに大笑い! と同時に、「ねえ、先生」「本当にごめんね」「今さら遅いよね」などと、先生への後悔と懺悔を語るモノローグに胸がズキズキ。
この両方が、なんとも絶妙なバランス感で心に迫ってくるんです。
また、明子は美大在学中、つい遊びと恋愛に夢中になり、目標としていた漫画はおろか、絵すらほとんど描きません。
しかも、心配して遠くから来てくれた先生に対しても邪険な態度をとってしまいます。
それらに対し、「あの頃の私は自分勝手でわがままで、ずるくて嘘つき」「頑張ることはダサいって思ってた」「貴重な時間をどれだけ無駄にしたか…」と、当時を振り返りながら全てをさらけ出す作者の視点がとても痛くて。
読んでいると私も、昔のダメな自分、恥ずかしい言動、薄情な態度などを、容赦なく思い出させられるんです。
「同じような後悔があったな~」「若い時、ああすれば良かったなぁ」って何度も何度も共感しながら読みました。
こんな先生に出会えた東村アキコが羨ましい!
それとやっぱり特筆すべきは、日高先生の強烈なキャラクター。
すっごく厳しいけれど、とにかく絵に対して真っすぐで、真剣で、生徒思い。
絶対に嘘はつかず、誰に対してもいつも100%本気で接する……。
読み進めるにつれ、その個性と生き様に惹かれていく自分がいました。
「私もこんな先生に出会いたかったな」、「うちの息子たちが、もしこういう一生の恩師に会えたらすごい幸せだな」なんて思ったりもして。
誰しも、若い頃にお世話になった人に不義理をしてしまうことって、大なり小なりあると思うんです。
私も、今までお世話になった人たちや、可愛がってくれる高齢の祖母の顔が思い浮かんで、最終巻は泣いてしまいました。
いろんな後悔を振り返りつつも、自分の道を信じて、「それでも描き続ける」こと選んだ明子。
痛かったり苦しかったりするシーンもあるけれど、最後には前向きな気持ちになれる、そんな漫画です。
<お薦めしてくれたワーママ>
6歳と2歳の息子を育てながら、地方公務員として働くワーママ。
家に本や漫画があふれてきたので、思いきって整理しようと思い立ち、この漫画も育休中のいとこにあげてしまったのだとか。最近また読み返したくなり、ちょっと後悔している今日このごろ…。
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横山香織
ライター/編集者