2019.08.01
「すき」「きらい」を食べることで子供が使う言葉や声かけが変わる!?「たべることば」ってなに?
「すき」「きらい」「バカ」「キモい」これらのことばを実際に食べることができたら…一体、どんな味がするのでしょう?考えたこともありませんでしたが、確かに、気になります。この度、株式会社フレーベル館が「ことばの意味を味わってみよう」と『たべることば』絵本を制作しました。フレーベル館といえば120年以上続く老舗児童向け出版社。「アンパンマン」や「ウォーリーを探せ」などの名作絵本はもちろん、月間保育絵本「キンダーブック」などの知育絵本、さらには、昆虫語がずっと繰り広げられる「なずずこのっぺ?」(昨年の青少年読書感想文全国コンクールの課題図書にも選出)など、話題の図書を世に送り出しています。
この『たべることば』は長年、幼児教育や児童書の出版に携わっている出版社だけあって「ことばの強さや重みを再確認してほしい」と、食べて味わう絵本作りに挑戦されました。制作にあたっては実際に子どもたちにことばのイメージをヒアリングしつつ、それを教育学者や言語学者が監修、製菓専門学校の教員が製作。「ことばを(実際に)味わう」というコンセプトの下制作された、これまでにない絵本だけあって、多くの専門家がコラボレーションし、壮大なプロジェクトになりました。
それにしてもどんなお菓子が作られているのでしょう。実際味わってみると…、想像以上に考えさせられました。
ポジティブなことばは、何度でも味わいたい!
登場する7フレーズあることばの中、ポジティブなワードは「すき」「だいすき」「ありがとう」の3種類。文字そのものがお菓子になっていて、ページをめくるごとに、見た目にもポップで美味しそうなことばのお菓子が閉じられていて、子どもたちも大喜び! パイ生地にアイシングされたり、カラフルにデコレーションされたグミだったり…どれも爽やかで何度でも食べたいお菓子に仕上がっていました。
「ポジティブな言葉は何度聞いても嫌にならないし、元気になる!」というイメージから構成されているのでしょう。子どもたちが「もっと食べたいね!」と隣で笑顔に話しているのを聞いていると、「心地よいからもっと言って!」と言われているように思えました。
ネガティブなことばは、嫌な余韻がいつまでも残る…
一方で「きらい」「バカ」「キモい」などネガティブなことばを食べてみると…どれも食べ続けるのがしんどく、途中で断念。水を飲んでも舌に残っていて、いや〜な余韻が胸いっぱいに広がっています。「きらい」は苦味が残り、「バカ」はピリピリとした辛味がいつまでも続き、「キモい」は漢方のような薬草のような臭みが喉元過ぎても続いています…。
「あぁ、これは言ってしまう方は簡単だけれど、言われた方はずっと嫌な感じが残るんだなぁ」受け取る側の心情が残りやすいと、改めて思いました。そして水に流しても流しきれない、しつこさがありました。ラムネでできた「ごめんね」だけはほろほろとした口どけと清涼感が残り、救いがありました。スーっと気持ちが解ける感じなのでしょうね。それにしても、子供がよく理解できるようにどの言葉も本当に上手に表現されています!
改めて思う、「ことばえらび」の大事さ
もともと、この企画が生まれた背景には、SNSなどデジタルデバイスの普及があります。個人が手軽に自由にことばを発信できるようになった反面、ことばの暴力が世界中で拡大し、子どもたちの世界でもSNSによるいじめが増加しています。子どもたちを取り巻く言語環境が大きく変化したことで、これまで以上にことばの重みや使い方を、小さな頃から一緒に考える機会が必要ですよ、と警鐘を鳴らす意味で制作されたのでしょう。そして、それは子ども同士の話だけではなく、大人が子どもに発することばの重みも考えさせられました。
家族で日常暮らしていると、子どもに対してもネガティブなワードをつい吐露してしまうことってありますよね。愛情込めたつもりで「バカだねぇ」「そういうの、お母さんきらいよ」など言ってしまうこともしばしば。こちらは軽く発したことばでも、子どもは傷ついている?尾を引いている?と思うとドキッとしました…。逆に、ポジティブなワードは何度でも言っても嬉しい気持ちになる、でも長くは印象として残らないので「好きだよ」「大好きだよ!」ということは日々伝えていこうと改めて心に決めました。
頭で理解していることでも、こうして実際に食べると”味覚”として記憶に残るので、腹落ち感が全く違いますね。そして、改めて幼児期の頃にはできていた丁寧な接し方や声かけなどが、子どもの成長と共にできていない気がして…反省。子ども自身も小学生ぐらいにもなると、生意気な口のきき方をしたり反発してきたり…つい、大人も感情的になってしまいがちですが、そういう時こそ原点に立ち返って、一つひとつのことばのもつ意味を大事に捉え、そしてポジティブな言葉をどんどん増やしていきたいと思います。そして、家庭内でことばを大切に扱っていることが、お友達との関係性にも現れてくるのでしょうね。
この「たべることば」絵本はまだ一般発売されていませんが、今後、製菓会社との共同開発も視野に入れながら、商品化を検討しているとのこと。発売された時は、親子でじっくり味わいながらことばについて考えてみてくださいね!
飯田りえ
編集者/ライター