2020.03.06
母乳神話に惑わされすぎないで! 経済学的に見て、あなたの子育てがOKな理由
母乳育児は赤ちゃんの健康に好ましい影響があるということは、広く信じられています。
「赤ちゃんには母乳がいちばん」
「母乳じゃないと、賢い子にはならない」
「ミルクだと肥満児になるよ!」
などなど、栄養面・健康面だけにとどまらず、母子の情緒的なつながりを含め、知能の発達を促すとまで考えている人もいますが、はたしてすべてが科学的根拠に基づいたものなのでしょうか。
本当かしら? と思いながら、母乳育児を義務のようにとらえてしまうママも、少なくありません。
できれば母乳で育てたいと思っていても、どうしてもかなわない場合もあります。
大切なことは、なにが真実でなにが神話か、見極めることです。
そこで、今回は東京大学経済学部・政策評価研究教育センター准教授である山口慎太郎さんの『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった 結婚、出産、子育ての真実』(光文社新書)を参考に、思い込みにとらわれずに、自分から幸せになる子育てを選べるようになるための方法をご紹介します。
「母乳神話」はどこまで本当なのか
母乳を飲んでいる赤ちゃんは、
・ママから免疫をもらうから病気をしない。
・健康になる。
・虫歯にならない。
・肥満児にならない。
・頭がよくなる。
などということを、どこかで耳にしたことはありませんか?
ですが、全部が全部、本当なのでしょうか。
確かに従来の調査だと、母乳を飲んで育った子どもの方が、ミルクで育った子どもよりも健康で知能の発達も優れているという結果が出ることはあります。
が、著者の山口さんは、これを母乳育児の恩恵と結論づけることは早急だと述べています。
なぜなら、そもそも健康や教育に対する意識が高い家庭は母乳育児を選ぶ率が高いため、後々の健康面や知能面が優れていることが、母乳で育てたからなのか、それとも健康や教育に気をつけて育てた結果なのかがはっきりしないからです。
また、母乳育児を選ぶ両親はもともと知能も高いことが多いため、子どもの健康面や知能面の発達も両親の遺伝である可能性も考えられます。
母乳育児に長期的な好影響はない?
1996年、ベラルーシで母乳育児促進プログラムの研修を受けた医師・看護師のいる病院と、そうでない病院で出産した赤ちゃんを対象にした調査が行われました。
ベラルーシは日本を含む先進諸国と、基本的な医療体制が整っている等の点で共通点があります。
そのため、この調査の結果は日本にとっても妥当性があると山口さんはしています。
調査の結果、わかったことは、「乳児の健康面に限れば、母乳育児はいい影響がある」ということでした。
生後1年間の乳児の健康状態を調べた調査では、感染症胃腸炎と、アトピー性湿疹にかかる割合が減り、乳幼児突然死症候群(SIDS)の発症率も減少しています。
ですが、6歳半の時点での調査では、子どもの健康面や肥満度に関しては、母乳育児は影響がないことがわかりました。
また、アレルギー、喘息を防ぐ効果も、ほとんどなくなっていました。虫歯についても同様です。
知能に関しては、6歳半くらいまでは、母乳育児で育った子どもの方が高い成績を残しますが、残念ながら、その効果は長くは続きません。
まとめると、母乳育児は、乳児の感染症胃腸炎とアトピー性湿疹を抑え、乳幼児突然死症候群の発症を減らす、という点のみ、信じるに値し、健康面、知能面、行動面における長期的な影響は、定かではない、というのが現状のようです。
母乳育児がママのメンタルにもたらす影響は人それぞれ
では、「母乳育児は母子の情緒的なつながりを育てる」と言われることに関しては、どうでしょうか。
ある程度乳の出が安定し、授乳のタイミングが決まってくると、かなり母乳育児は楽にはなります。
赤ちゃんとのスキンシップを文字通り肌で感じられますし、それに癒される人もいますよね。
ですが、赤ちゃんにおっぱいを吸われるのが不快でしかないという人も、いなくはないようです。
情緒的なつながりに関しても、母乳がいちばん、とは一概に言えません。
おっぱいをあげながらスマホをガン見しているのと、赤ちゃんと目を合わせて哺乳瓶で授乳するのとでは、どちらがいいのでしょうね。
そもそも、安定した状態に到達する前に、母乳育児は最初がとにかく大変!
出産という大仕事を終えたばかりの女性にとって、授乳は新たな試練といえるでしょう。
すぐに順調に出るとは限りませんし、出る人は出る人で、安定するまでは乳腺炎の恐怖との闘いです。
生まれたばかりでふにゃふにゃの赤ちゃんを支えながら授乳するのは、慣れるまではなかなか大変で、腱鞘炎になってしまったというママも。
おまけに、自分自身の身体はまだあちこち痛いですしね。
なにより、体力を消耗します。
お乳はママの血液からできているのですから、授乳毎に献血しているようなもの。
とどめは、母乳はミルクより腹持ちがしないので睡眠も細切れになり、慢性的な睡眠不足に悩まされることです。
これらを乗り越えて安定した母乳育児ライフを送るには、夫や家族の理解と協力なしにはとても難しいと思います。
それで挫折してしまっても、ママのことは責められないのではないでしょうか。
それでも母乳で育てたいとき
それでも母乳育児を選びたいなら、見直すべきは夫の働き方です。
夫の働き方次第で母乳育児は楽になるということが、研究でわかっているそうです。
この研究では、夫の会社にフレックスタイム制があるかどうかが母乳育児に及ぼす影響を調べました。
その結果、夫の会社にフレックスタイム制があると、母乳育児の実施率が上がり、母乳育児の期間も長くなるということがわかりました。
パパはおっぱいは出せませんが、こんな形でママを支えることができるのなら、どんどんパパの働き方改革を進めてほしいですね。
動物のように、ただ子どもを育てることだけに専念できればいいのかもしれませんが、現代のママはそうはいきません。
仕事の関係で、育児休暇を短く切り上げなければいけない人もいます。
それに、昔も今も、どうがんばっても母乳が出ない人だっているのです。
ママ個人の選択を尊重してあげてください。
それでも周りの声にやられてしまいそうなときは、知識として、本書に書いてあることを知っておくことで、心が落ち着くかもしれませんよ。
ぜひ、お手にとってみてくださいね。
冬木丹花
ライター