2018.11.08
【専門家に聞く】「いじめ」サインの見抜き方、子供への声がけ、学校への交渉どうすべき?<いじめインタビュー後半>
低年齢化している「いじめ」について。前回記事同様、自らもいじめ被害の経験を持つメンタルサポート・ジャパンの百世安里さんにお話を伺いました。前編は陰湿で巧妙な実態が浮き彫りになり、子どもたちにどんな影響があるかも見えてきました。
後編では子どもがサインを発したときの対処法について。大人はどう対応すれば良いのか、なんと声がけをしたら良いのか、学校との交渉の仕方…などを、より具体的に教えていただきます。
いじめのサインの見抜き方は…?どこに気をつけておけば?
子どもに次のような様子が見受けられたら、いじめにあっている兆候かもしれません。些細なことですが、あれ?おかしいな?と思ったら、そのままにしないで、お子さんとの時間をとってみましょう。
●ぼーっとする、口数が減る、成績が下がる、忘れ物が増える
→いじめの不安や恐怖、ストレスで、他のことが手につかなくなるため
●学校のことを話さなくなる、友達の話を避ける
→親に言えない状況だから。反対に、作り話しで親を安心させようとする子もいます。
●教科書や持ち物がなくなる、ケガや服や体に汚れがある
→いじめられている証拠なので、隠したがる傾向があります
●朝、学校へ行きたがらない、体の不調を訴える、遅刻が増える
→いじめを受けたくないための防衛反応(無理をしていく必要はありません)
●遠足や運動会など、行事の参加を嫌がる
→仲間外れにされているため。普段の授業と違って、先生の目が行き届きにくいので、被害が拡大することもある。
●食欲が減る、あまり眠れていない、感情の起伏が激しくなる、言葉がドゲトゲしくなる、攻撃的になる、イライラして怒りっぽくなる
→いじめを受けて出る心の症状、ストレスから攻撃的になりやすい
【対処法・その1】子どもに対して最初の言葉がけ
先ほどのいじめのサインを感じたら、上手に話を聞き出していきましょう。子どもにとって辛くて話しにくいことなのですから。
まずは「そうだったの、辛かったね。話してくれてありがとう」と、話してもいいんだとホッとさせてあげましょう。子どもの気持ちをそのまま受け入れてあげることが大切です。
●「何があっても、お母さんはあなたの味方だから」
→被害にあうと、孤立させられます。一人じゃないと勇気付けてあげてください。
●「なんてひどいの。周りが間違っている」
→自分で自分の被害は訴えにくいもの。本人が言いにくいことを代弁してあげましょう。
●「よく頑張ったね、もう我慢しなくていいよ」
→これまでを評価することで、自己肯定感を。
●「あなたを守るためなら、なんでもするよ」
→力になることを伝えて安心感を与える。これ以上、一人で悩ませたり我慢させたりしないよ!と。
●「いじめられたのはあなたのせいじゃないよ。これからどうすればいいか一緒に考えよう」
→対策は本人の気持ちを最優先で。休学や転校になっても、子どもの安全と気持ちが第一です。
一番NGなのが、親が感情的になり、興奮して子どもに「誰が?どうして?なんでそうなったの?」など詰問すること。
子どもは「やっぱり、話さなければよかった」と後悔しかねません。「あなたが弱く見られているからよ」「もっと強くなりなさい」と、子どもに対して「弱者」のレッテルを張るのもNGです。いじめの原因が自分にあると思ってしまい、自己肯定感が下がってしまいます。
【対処法・その2】学校に対しての交渉ステップ
いじめの現場となっている学校への対応は、冷静さと慎重さが必要となります。感情的な責任追及をするのではなく、「現状困っていることに対しての解決策を求めたい、話し合いたい」というスタンスで行動しましょう。
1. 事実確認と文書の作成、証拠集め
感情的になって怒鳴りこんでも事態はよくならないのが実情です。
学校との交渉には、必ず文書を使うことがポイントです。特に、学校はお役所と同様に公的機関でもあるため、文書に対して責任が生じる体質があります。また、学校は組織で動きますから、校内で関係者間に共有されやすくなります。
というのも、いくら口頭で切々と訴えても、「親の話を聞いて、学年主任に報告した」だけで、「対処した」と考える先生もいるからです。話を聞いただけで、何も動いてくれないのでは困ります。さらに、学校がいじめを知らなかったことにしたい場合にも、文書を渡すことで「聞いた・聞いてない」といった問題が起きにくくなります。
●文書の書き方
「被害事実」を列記して、いじめの状況を明記していきます。
・日付を入れて、時系列で書きます。できれば時間帯も。
「◯月◯日、2時限後の休み時間」「給食時間」「放課後」など。
・場所を入れます。「廊下で」「理科室で」
・相手の名前や人数など。
・具体的な言葉やできごと。
・ケガや壊されたモノの写真などがあれば添えてください。
・証拠は紛失の恐れがありますから、渡さないようにしましょう。
・最後に文書を渡した日時もお忘れなく。
先生によっては、「わかりました」「注意してみます」「様子をみましょう」と、結局何もしない場合もありますので、「○月○日までに回答をください」と期日も書きこんで渡しましょう。
●子どもから話を聞き出す方法
低学年の子どもの話は、日時や場所がうまく話せないことも多いもの。
ですので、「給食の前?あと?帰る時間?」「運動会よりも前の日?遊園地にいった日よりも前?」「(地図を見せながら)学校のどの場所?」「誰かいたかな?」と、お子さんにとってイメージしやすい言葉で、具体的に話を聞き出してみてください。
もちろん、記憶が定かではなかったり、被害を受けたショックからオーバーに話したりしてしまうこともあります。行き違いから一方的に学校を攻めてしまわないためにも、客観的な状況確認は大切です。他の家庭に電話で聞いてみたり、学校に電話や連絡帳でそれとなく様子を伺ったりして、合わせて事実確認をしておきましょう。
●証拠集め
・壊されたもの、汚されたもの
・ケガや傷あとなどの写真
・嫌がらせのメール、ライン、SNSのデータ
・学校で言われたこと、子どもが話したことのメモ
・診断書など
・同級生の父母から聞いた話(メモや、電話の録音)
証拠をもみ消したり、クラスの子どもたちに口止めしたりする学校もあるそうなので、事前に素早く証拠集めを。
2. 先生・学校との交渉
いじめはエスカレートしやすいので、できる限り早く学校と話し合いをもちます。現場の担任から対応を求めていきますが、担任が動かない場合は、学年主任⇨教頭⇨校長⇨自治体の青少年課など⇨教育委員会へ、上の立場の人に会いに行きます。上から言われると動かざるを得ないという力関係があるからです。
「いじめがあるorない」の学校責任の話ではなく、証拠を見せて具体的な対策を求めます。また、定期的な進捗を確認する日程を確認しておきましょう。
3. いじめ加害者からの謝罪
加害者家族との話し合いが一番難しいかもしれません。というのもいじめの背景には、家庭に原因がある場合も多く、子ども以上に親が手に負えないケースもあります。親は自分や自分の子どもの非を認めたくないので、平行線になることも。
ですので、家族だけで会うのではなく、学校や弁護士など、第三者に入ってもらって話し合いましょう。目的は謝罪と反省、そして今後に対する予防について、この3点です。
【対処法・その3】解決策は子どもと一緒に探すスタンスで
百世さんは学校に話に行ったり、何か行動したりする時は必ずお子さんの了承を得てから行っていたそうです。考えてみれば、学校で実際に加害者や先生の対応と直面し、結果を受けとめるのは、お子さん自身なのですから。親が勝手に突っ走っては、子どもが不信感をもって心を閉ざしてしまいかねません。
とにかくまずは子どもの話を全面的に受けとめた上で、証拠集めをしながら、他のお母さんに聞き込みをし、事実確認をします。
そして、子どもにして見たら「学校に親がいくことでいじめがひどくなるかもしれない」と思い不安になりますよね。だから、「なにが心配なのか、どういう方法なら良いか」を一つひとつ一緒に話し合ったそうです。
「告げ口したって言われるから(学校に)言わないで」と子どもが言う場合は、「じゃぁこのままだったら、どうなるかなぁ」と想像させると、本人もわかるんですよね、どうしていいかまではわからなくても、このままじゃ嫌だなぁと。
どうすればいいかの知恵や選択肢は、大人がどんどん提案していきましょう。ブレーンストーミングの手法を使って、非現実的でも突拍子のない案でもかまわないので、たくさんアイデアを出します。そのうちに、この先生はこういうタイプだから・・とか作戦が出てきたりします。
〝本人の意思を尊重しつつ一緒に解決策を考えていくことが大切〟
そうすることで、一緒に乗り越えられた経験から親子の絆も強くなります。だって、学校はほんの数年間。それより親子関係は一生ものです。勝手に親が怒鳴り込んで、親子の信頼関係がなくなったら、意味がありません。
選択肢には、「休んでもいいし、引っ越してもいい」。転校を”逃げ”というのは、加害者たちが獲物を逃したくないから。気にする必要はありません。「自分にふさわしくない場所は捨てていい」。いじめを隠蔽するような学校や、自分の非を認めない家庭は、自分たちの努力では変えようがないのですから。
【いじめの予防法】いじめは防げる
前回記事の実例を知ると暗澹とするばかりですが、子どもたちの安全を守るにはどうすればよいのでしょうか。
実際にいじめが起きないように工夫されている小学校の取り組み事例を教えてもらいました。
その方法は、新学年のスタート時に、次の3つの言葉を伝えるそうです。
「100%いじめる側が悪い」
「いじめていい理由などない」
「自分がされて嫌なことは、人にしない」
これを教室で子どもたちにしっかりと話し、保護者にも「協力してください」と伝えます。いくつかの単語がカッコで隠されたプリントを渡して、家庭でも親子で話し合ってもらうそうです。
子どもたちに事前に約束をさせることで、ルールを破りにくくなりますよね。小さなことが起きても、行動基準のルールを伝えてやめさせやすい。特に学年の最初は、試し行動やグループによるパワーゲームが起きる前なので、効果的です。その後も、行動基準をもとに一つひとつの小さな芽をすぐに摘んでいけば、いじめに育っていきません。
また家庭でも「もし自分・友達・学級でいじめが起きた時、どうするか」被害者、加害者(加担者)、傍観者、それぞれの立場になった時のことを事前に話し合って、子どもと確認しておくことも一つ予防対策として取れるかもしれません。
ご家族の辛い経験を乗り越えた百世さんだからこそ語れるお話ばかりでした。
何よりもいじめにあってしまった場合、子どもの意思を尊重して話し合い、「ママは何があってもあなたの味方だよ」という、スタンスを守り続ける。これに尽きるな、とお話を聞いて思いました。
いじめへの対処は親として、正しい知識と誰よりも冷静に対応しなければならない強い心が必要ですね。言葉がけや学校への対処法など、時々見返しておくと良いかもしれません。
<専門家PROFILE>
メンタルサポート・ジャパン 代表理事 百世安里さん
いじめと心の傷(トラウマ)の専門家。著書に『へこまない思考法』『社会起業家スタートブック』『家事する男の作り方』『働くママでよかった』などがある。子どもと共にいじめ被害にあい、裁判勝訴。日本を代表する精神科医・斉藤学先生のもとで、PTSD診断を受けて5年間治療、心理療法知識を深める。自身のPTSD経験をもとに2009年より、演劇メソッドを使った心のケア「トラウマ解凍ワーク」をスタートさせた。日本メンタルヘルス協会基礎カウンセラー。「悩み辞典」相談員。
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