2015.11.30
スタッフは「ママ」がターゲット 。スタートアップ企業経営者が本音で語るママ雇用のメリット・デメリットとは?
客もスタッフもママがターゲット
出張シェフサービスを展開する『MyChef(マイシェフ)』(東京都港区。以下、マイシェフ)。
マイシェフに登録している料理人が、食材の買い出し、客の自宅や指定場所での料理、簡単な後片付けまでを、客1人当たり約3000~5000円の費用で行ってくれるサービスです。清水昌浩社長によると、育児中の女性を主たる顧客層に定め始めたという狙い通り、創業以来ずっと、客の6~7割が育児中の女性とのこと。
そしてそのほとんどが未就学児のいるケースで、ママ会や親戚の集まりなどで利用されているそうです。
割り勘でも面倒にならないようにと交通費、消費税込みで一般的な出張シェフサービスよりも抑えた料金設定、料理をゆったり食べられるだけでなく、キッチンやシンク、調理器具の片づけも含まれている点も高ポイント。「育児中の女性たちに『私たちのためのサービスだ』と感じてもらえている手ごたえがあります」(清水社長)。
また、清水社長は運営を支えるスタッフも、ママをターゲットにしているようです。
その背景や、ママをスタッフにするメリット、デメリット、現在育児専業になっているがキャリアを持っているママの能力の生かし方などについて、お話を伺いました。前編・後編に分けてお伝えします。
−−今のスタッフさんは育児中のママが多いということですが、募集段階で「育児中のママ歓迎」と明確に打ち出していたのですか?
社長の自分を含めて共同創業者3人で始め、事業が軌道に乗り注文が増えて回らなくなってきたとき、人を増やす段階になりました。では、急に正社員を採るかというと、広報も顧客対応も、マーケティングも、すべてをこなせる正社員1人を採るのではなく、分担体制で少しずつ業務を増やしていく方針をとりました。
マイシェフのサービスを良いサービスだと実感して利用してくれているお客さんが、スタッフをしてくれるというのがいいなあという思いがありました。育児中の方のご利用が多いのでターゲットは育児中の女性で、現在フルタイムで働いていない方、そして独身の頃やお子さんが生まれる前はフルタイムで働いてキャリアを積んできたような方が、一番フィットしそうだと思いました。
かつて正社員で月曜から金曜まで働いていた女性が、いったん離職し、赤ちゃんや未就園児を抱えて仕事をしたいと思ってもなかなか難しい現実があると思います。それに対して、短時間・在宅勤務というスタイルを提案した形です。
応募していただいた女性は全員が、フルタイム正社員経験者でした。
働くママへの評価は「まじめ」「子どもじゃない」
−−清水社長が感じる「ママを雇うメリット」はずばり、何ですか?
ママたちは、「まじめ」。そして、「子どもじゃない」ですね。「子どもじゃない」というのは、例えば、メールを書く際に相手に心配りができるかといった基本的な社会人経験や、正論だけを言うのではなく現実に即して実務を進める必要性を理解していたり、コツコツと取り組む忍耐力があるという意味です。
また、子育て経験は、会社の組織でいうとマネージャー業務経験に近い部分がある気がします。社内の色々な不満も吸収して対応する課長レベル。
子育ての負担も、受け止めて対応するしかないと思います。今一緒に仕事をしているかたたちからは、権利ばかりを主張するのではなく取り組むべきことにきちんと取り組む姿勢を感じます。
リスクも伴うスタートアップ企業のママ雇用
−−では、ママを雇うデメリットについてはどう感じますか?
一般的に言うと、子どもが急に風邪をひいたから休むとか打ち合わせに出られないことなどがデメリットという言われ方をすると思いますが、自分はそれについてはあまり感じません。そういうものだという前提で業務を組んだり仕事を分配すれば、1週間単位までだったら受け止められる範囲です。
例えデメリットが出てきても、細かいことまで社長という立場で受け止めて自分で変えられるということも、大きいかもしれませんね。これが従業員1000人規模の会社でしかも課長だと、自分だけでは変えられませんから。
しかし、独自のビジネスを展開しているスタートアップ企業として、1人目の従業員として育児中のママを雇いますかと聞かれたら、そこは違ってきます。仕事で相当無理を強いることになりますので。無理がきかない人を雇うのは、事業所リスクになってしまいます。
―−ママを雇うデメリットではなく、スタートアップ企業として成長を続けていくうえで、ママを正社員にするのはまだ難しいと?
社員が10人を超えたら、ママを正社員で雇用するというのも、可能性が出てくると思います。
会社の創業は最初の10人のメンバーが非常に大事で、そこを妥協して伸びた会社はないのです。その10人に家族が優先という方を正社員で入れるというのは難しい。
お母さんが24時間お子さんのことを思っているように、24時間会社のことを思ってすべてを会社に費やせる人でないと無理だと自分は思っています。スタートアップ企業の創業、運営は、やはり甘くはありません。ただ、メンバーが10人を超えてくると運営業務的な部分が生まれ、色々な方を受け入れられる可能性も出てきますね。
マイシェフが取り組むママのキャリアの生かし方
−−現段階でママを正社員にすることはできなくても、能力のあるママを発掘し、その力を発揮してもらうことは、もちろん可能。マイシェフはそこに取り組んでいるということですね。
現在、在宅のスタッフの皆さんにやってもらっているのは、ある程度切り分け、分担したりカバーし合える業務。マイシェフの在宅スタッフは、家庭や子育てに軸足を置きながらもある程度働きたいという意欲を持っている方向けであり、子どもを保育園に預けなくても働くことができます。普段はもっぱらスカイプでやり取りし、顔を合わせて会うのは数か月に1度。広報担当者も、普段は在宅で作業をし、メディア企業などに出向くときに一緒に行く程度です。
現在の運営体制は、いわゆるフルタイム社員は私1人だけ。ほかに、フルタイムではありませんが創業メンバーが2人。そして、女性の在宅スタッフが6人います。うち5人は小さなお子さんがいて、残りの1人も来年出産予定です。
創業して約3年のスタートアップ企業として、育児中の女性を正社員とさして雇う段階ではまだない」と率直に話す清水社長。しかし、清水社長の提供するフレキシブルな働き方は、「家庭や育児に比重を置きつつも責任のある仕事を始めたい」と考える女性たちのニーズとマッチする部分があったようです。後編では、柔軟な在宅勤務でママのキャリアを生かす取り組みについて、詳しくお伝えします。
個人向けの出張シェフ・出張料理サービスを展開。担当シェフが「みなさまのご自宅で」「お値打ち価格で」「本格的でおいしい料理を」実現。
千葉美奈子
ライター