2020.01.29
【孤独は危険】頼る人がいない「 アウェイ育児」どうやって乗り切る?
親兄弟や友人・知人のいない、慣れない土地での育児、「アウェイ育児」はつらいもの。産後うつから、自殺してしまうほど自分を追い詰めてしまう人もいます。かたや、アウェイの土地でもなんとかやれる人もいます。体験談などをもとに、アウェイ育児脱出法を探ります。
「子育て=孤育て」は人類の非常事態?
それは、1人目を産んだあと、ある日突然訪れます。
赤ちゃんはかわいいけれど、思った以上にお世話はたいへん。夫は忙しくて、あまり頼れない。自分がしっかりしなくては・・・。ふと気づくと、今日も一日、夫以外の大人と話していない・・・。
現代では、あまりベタベタした人間関係は好まれません。ですが、それまでは一人でどこにでも行けていた女性さえ、日中赤ちゃんと二人きりという生活が続くと、じょじょに孤独に蝕まれていきます。
実は、もともと人類は孤独に子育てするのに慣れていないのです。2016年に大きな話題になったNHKスペシャルを元にした書籍『ママたちが非常事態?! 最新科学で読み解くニッポンの子育て』によると、太古から続く人間本来の子育てとは、決して親子だけでするものではなく、複数の親子が交じりあい、誰が誰の子どもかわからないほど生活を共にした共同養育のスタイルなのだそうです。
日本でも、つい数十年前までは、地域で子どもを育てる共同養育が一般的でした。言ってみれば、長い人類の歴史のなかで孤独な子育ては、比較的最近の現象なのですね。
本能では一緒に子育てする仲間を求めているのに、現代のクールな人間関係や、隣との境目がしっかりある住居環境、核家族化、そしてママになった女性を襲う「しっかりしなくちゃ」という謎の責任感から、ますます孤立してしまうのが、現代のママなのではないでしょうか。
アウェイ育児に陥りやすいタイプとは?
NHKスペシャルが番組に先立って行ったアンケートでは、子育てがつらいと感じたことのないママは、全体のたった1割。「子育てはつらい」が完全にデフォルトになっているのですね。
子どもの夜泣きがひどい、夫が協力的でない、いろいろ問題はあるでしょう。ですがそうした問題が解決しないことが問題なのではなく、日々のちょっとした出来事を共有したり、話したりする仲間がいない、つまり孤独であることが、なによりも問題なのだと思います。
実家も遠く、友達も知り合いもいない土地では、なおさら事態は悪化します。さらに、本人の性格がまじめすぎたり、それまでの人生であまり人を頼ることに慣れていないと、アウェイ育児から抜け出すことはますます困難になるでしょう。
アウェイ育児体験談
では、実際にアウェイでのつらい育児を体験した方のお話をご紹介しましょう。もともと、女友達が数えるくらいしかいない上に、実家とは仲が悪く、ほとんど頼らなかったというSさん。
「独身時代は、正直、女友達なんかいらないと思っていました。恋愛至上主義というか、そっちの方が大切だったので(笑)ですが、いざ出産したら、誰でもいいからママ友が欲しいと思うようになりました。だけど、どうやって仲良くなったらいいかがわからなくて・・子どもを介して知り合いになることはあっても、それ以上が踏み込めないんですね。結局、育休中にママ友はできませんでした。子どもが保育園に行くようになって、やっと地域に友達ができましたが、それまでは本当に孤独な日々でした。赤ちゃんと一緒によく泣いていました」
子どもを育てるうえで、ある意味戦友のような存在、それがママ友です。が、子どもが生まれたからといっていきなり作るのに、ハードルを感じる人もいますよね。次に、子どもを産んだ数か月後に夫が海外に単身赴任になり、母子2人だけの子育ての時期を体験したIさんのエピソードです。Iさんは、ほんわかした笑顔が印象的な、誰とでも仲良くやれそうに見えるタイプの女性です。
「実家は電車で2時間の距離。とても乳飲み子を連れて行ける距離ではありませんでした。とにかく心細かったですね。実家は実家でいろいろあり、私たち母子を受け入れる余裕はなかったし、夫の実家も遠かったので頼れませんでした。今、考えると、よくがんばってたなあって思います」
タイプは違えど、子育て×アウェイの土地が、産後のママに悪影響を与える危険が高いことを表しているエピソードだと思います。
アウェイ育児を乗り切るコツ
アウェイ育児にはまりこんでしまわないためには、なんといっても孤独をどう解消するかがカギになってきます。
自宅から近い産院で出産する人のなかには、妊婦時代からママ友づくりに余念のない人もいます。それが出来ればベストです。遠くの親より近くの友達、ですね。
ですが、里帰り出産の場合、近所には同時期にママになった人の知り合いが皆無、ということもありえます。
そんなときは、なるべく早いうちから赤ちゃん連れで行ける場所(子育て支援センターなど)に頻繁に出かけていって、ママ友をつくるのもひとつの解決策です。ベビーマッサージ講座などのイベントに参加するのもいいですね。
これは持論ですが、ママ友はスマートに作ろうとするよりも、自分を前面に押し出してつきあえる人を見つける方が断然長持ちする気がします。
たとえばファッションも無難にしておくのではなく、好きなものを着ればいいんです。推しのバンドTシャツを着ていたことがきっかけで、仲良しのママ友ができた人もいます。子どもが生まれると自分のことは二の次になってしまう人が多いですが、自分が主軸にない人間関係は疲れます。
アウェイ育児に関しては、こうすれば大丈夫、というものはないかもしれません。ですが、同じ街で子育てしている誰かもまた孤独に悩んでいるかもしれない、と思えれば、世界が違って見えてくるかもしれません。
それと、子どものおかげで地域の人とのつながりが生まれることも多々、あります。
筆者もまたアウェイ育児だったのですが、図書館とお豆腐屋さんには日課のように通って、仲良くしていただきました。図書館の司書さんはオススメの本を教えてくれたり、お豆腐屋さんは、数年後、迷子になった息子を探すのを手伝ってくれたり、たいへんお世話になりました。
それまでは、お店の人と世間話をするなんておばちゃんみたい、という思い込みがあったのかもしれません。今は、孤独を耐え忍ぶより、おばちゃんでいいじゃない、と思えます。子どもがいるからあちらも声をかけやすいし、こちらも受け入れやすいんですよね。世間話ひとつで一日の気分がずいぶん変わるんだなあ、とありがたく思ったものです。
女性は子どもを産むと強くなる、と言われますが、正確には「強くならざるを得ない」のかもしれません。生まれて間もない赤ちゃんを前に、初めは誰だって不安ですし、心細いもの。ましてやそれが、初めての子育て、初めての街ならばなおさらのこと。
「この子をしっかり育てなくては」「人に迷惑をかけてはいけない」と思えば思うほど、心は閉じていってしまいます。子育てがしやすい街とは、心を開いて話せる人がどれだけいるかということではないでしょうか。
今はアウェイでも、そこはあなたの子どもが育っていく街です。アウェイをホームに変えていくのは、あなた次第なのかもしれませんよ。
冬木丹花
ライター